映画『28年後...』基本データ
- 原題: 28 Years Later
- 監督: ダニー・ボイル
- 主要キャスト:
- アーロン・テイラー=ジョンソン(ジェイミー)
- ジョディ・カマー(アイラ)
- レイフ・ファインズ(ケルソン博士)
- アルフィー・ウィリアムズ(スパイク) ほか
- 日本公開年: 2025年6月20日
- 上映時間: 115分
- 視聴方法(2025年6月現在):
- 全国の劇場で公開中
この記事でわかること
- シリーズ初心者が『28年後...』を観た正直な感想
- 観る者の心を鷲掴みにする、独特でスタイリッシュな映像表現の秘密
- ゾンビ映画の枠を超える「メメント・モリ(死を想え)」という深遠なテーマ
- 本作を観る上で「過去作の予習は必要なのか?」という疑問への最終的な答え
- なぜ本作がシリーズ未見の人にとって「最高の入り口」と言えるのか
はじめに
こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。 今回は、2025年6月20日に日本で公開されたばかりのダニー・ボイル監督最新作、『28年後...』についてお話ししたいと思います。
実は私、公開日当日に劇場へ足を運んだのですが、決してこのシリーズの熱狂的なファンというわけではありません。『28日後...』『28週後...』に続く3作目ですが、1作目は観たはずなのに内容をほとんど覚えておらず、2作目に至っては観たことすらない…という状態でした。
ではなぜ観ようと思ったのか。理由は2つあり、1つは仕事終わりにちょうど良い上映時間だったこと。そしてもう1つが、私が信頼を寄せている映画批評サイト「Rotten Tomatoes」で、批評家スコアが90%を超える非常に高い評価を得ていたからです。
「シリーズをほとんど知らない状態で、本当に楽しめるのだろうか?」
結論から言うと、最高に面白かった。そして、鑑賞前の一番の懸念だったこの問いに対して、想像とは全く違う、非常に興味深い答えに辿り着きました。 今回は、そんな私の正直な体験を踏まえ、ネタバレなしで本作の魅力と、鑑賞を迷っている方へのメッセージをお届けできればと思います。

あらすじ
人間を凶暴化させるウイルスがロンドンで流出し、多くの死者を出したパンデミックから28年後。
生き延びるため海を隔てた孤島に逃れた人々は、見張り台を立て、武器を備え、身を潜めて暮らしていた。 ある日、島で暮らすジェイミーと、島を出たことのない12歳の息子スパイクは、ある目的のために島を出て本土へ渡る。
そこで彼らが目の当たりにしたのは、人間が人間でなくなった、感染者だらけの恐怖の世界だった。
※以下、物語の核心に触れるネタバレはありませんが、一部の展開に言及します。
作品の魅力
率直な感想として、過去作の知識がほとんどない私でも、この映画は非常に完成度の高い作品として楽しむことができました。ここからは、特に心惹かれたポイントをいくつかご紹介します。
スタイリッシュで独特すぎる映像表現
まず本作を観て、何よりも心を掴まれたのが、その独特でスタイリッシュな映像表現です。
冒頭から手持ちカメラを多用したブレの多い映像が続き、カット割りもかなり短く刻まれていきます。こうした手法は、感染者との戦闘シーンなど緊迫した場面で使われるなら分かります。しかし本作では、親子が旅支度をするような比較的穏やかなシーンですら、カメラは絶えず動き、カットは細かく割られていくのです。その独特のリズムに、冒頭からグッと引き込まれました。
この演出は、感染者が登場するシーンでさらに効果を発揮します。例えば、弓矢で感染者の頭を射抜くシーンでは、ジャンプカットのように視点を素早く切り替え、射抜かれた瞬間を多角的に見せるのです。個人的には、FPSなどテレビゲームのハイライト映像に近い感覚を受けました。

あまりの臨場感に「一体どうやって撮ってるんだ?」と気になって調べたところ、驚きの事実が判明しました。
なんと、この映像のほとんどがiPhone 15 Pro Maxで撮影されているというのです。これは、1作目が低画質のデジタルビデオカメラで撮影されたことへの、監督らしい粋なオマージュでもあるんですね。もし本当に世界が崩壊したら、きっと誰もが高価なシネマカメラではなく、身近なデバイスで記録を残すだろう、というリアリティの追求なのかもしれません。
さらに、最大20台のiPhoneを同時に使い、暴力的な瞬間を多数の角度から捉える「多角的なエフェクト」も実現しているようです。どうりでゲームのような臨場感があるわけですね。この映像に退屈さを感じる瞬間は一切ありませんでした。
また、特に印象的だったのが、私が観たシネスコサイズのスクリーンですら上下に黒帯が表示されるほどの「超ワイドスクリーン」の画角。これもダニー・ボイル監督の意図的な選択で、だだっ広い草原のどこから感染者が現れるか分からない恐怖感を効果的に煽っていました。
ゾンビ映画で描かれる「メメント・モリ(死を想え)」
本作の根底には、「サークル・オブ・ライフ(命の輪廻)」や「死生観」といった、非常に深遠なテーマが流れているように感じました。そして、ゾンビ映画というジャンルでこのテーマを描くことが、ありきたりではない深みを生み出しています。
そのテーマを象徴するのが、レイフ・ファインズ演じるケルソン博士。彼が口にする「メメント・モリ(死を想え)」という言葉。この哲学が、人間性を失ったはずの“感染者”という存在と結びついた瞬間、私は「まさか、そう繋がるのか!」と思わず唸らされました。ゾンビ映画でこのテーマに切り込むとは…その発想に、ただただ脱帽です。
この点について少し調べてみると、やはり本作は単なるサバイバルホラーではなく、崩壊した世界で育った少年スパイクの成長物語(ビルドゥングスロマン)としての側面が非常に強いようです。そして、その成長の過程で、ケルソン博士が示す「理性と慈悲」の道と、アーロン・テイラー=ジョンソン演じる父ジェイミーが体現する「暴力的なサバイバリズム」の道という、二つの生き様が対比的に描かれているのです。
もちろん、こうした哲学的な部分で奇をてらうだけでなく、観客がゾンビ映画に期待するハラハラドキドキ感もしっかりと提供してくれます。そのバランス感覚が、本作の大きな魅力だと感じました。
過去作の予習は必要?シリーズ初心者の懸念と答え
さて、今回私が最もお伝えしたかった、そして私自身が一番懸念していた点についてお話しします。それは「シリーズの過去作を観ていなくても、本当に楽しめるのか?」ということです。
正直に言うと、鑑賞中、私の頭の中では「このシーン、もしかして過去作のオマージュなのかな?」「この設定、知らないと楽しめない部分があるんじゃないか?」といった考えが何度もよぎりました。
しかし、鑑賞後に本作について少し調べてみて、その心配が全くの杞憂であったことを知りました。そして、むしろ本作が「過去作を知らなくても楽しめるように、意図的に作られている」という事実に気づき、深く感銘を受けたのです。
どうやら、ダニー・ボイル監督と脚本家のアレックス・ガーランドは、本作を単なる続編ではなく、新たな三部作の第一章と位置づけているようです。ウイルスを英国に封じ込め、新たな主人公と物語を軸に据えることで、意図的に過去作の知識に依存しない、独立した作品として設計したのです。
ですから、私のように「何か見逃しているかも…」と不安に思う必要は全くありません。むしろ、過去のシリーズを知らないまっさらな状態こそ、この『28年後...』という新たな物語を最も純粋に体験できるベストな状態と言えるかもしれません。
もちろん、1作目や2作目を観ていれば、世界の成り立ちや「レイジウイルス」の恐怖をより深く理解できるという楽しみ方はあるでしょう。ですが、それは必須の“予習”ではなく、あくまで世界観を深めるための“副読本”のようなもの。本作は、これ単体で完全に成立する、力強い一作です。
まとめ
ここまでお話ししてきたように、『28年後...』は、過去作の知識がほとんどない私でも心の底から楽しむことができた、非常に完成度の高い一作でした。
ゾンビ映画ならではのスリルと、輪廻や死生観といった深遠なテーマが生み出す未知の化学反応。そして何より、iPhoneを駆使した生々しくもスタイリッシュな映像表現は必見です。
そして何より、本作は過去のシリーズを知らない観客を全く置き去りにしない、新たな始まりの物語として見事に独立しています。 もしあなたが、私と同じように過去作を観ていないことで鑑賞をためらっているのなら、「全く問題ありません」と自信を持って背中を押させてください。
「さすが、映画を熟知している人が作る作品だ」と何度も唸らされる、本当に魅力的な一作です。この衝撃的な映画体験を、ぜひまっさらな気持ちで劇場で味わってみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事が、あなたの映画体験をより豊かなものにする一助となれば幸いです。
あなたはこのシリーズのファンですか?それとも、私のようにこれから観てみようと思っていますか?ぜひコメントで教えてください!
- IMDb『28年後...』
キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。