映画『ラ・ラ・ランド』基本データ
- タイトル:『ラ・ラ・ランド』
- 原題:La La Land
- 公開年:2016年(日本公開:2017年)
- 監督:デイミアン・チャゼル
- 主演(登場人物):
- ライアン・ゴズリング(セバスチャン役)
- エマ・ストーン(ミア役)
- ジョン・レジェンド(キース役)
- J・K・シモンズ(ビル役)
- 上映時間:128分
- 主な受賞・映画祭出品:
- 第74回ゴールデングローブ賞7部門受賞
- 第89回アカデミー賞で14部門ノミネート・6部門受賞(監督賞、主演女優賞など)
- 視聴方法:各種配信プラットフォーム(Amazon Prime Video、U-NEXTなど)やDVD・Blu-ray で配信・発売中
この記事でわかること
- 夢と恋が交差するドラマの魅力
- 鮮やかな映像美&ミュージカルの魔法
- チャゼル監督のジャズ愛とこだわり
- アカデミー賞“事件”の真相
- 今すぐ観るための配信情報と視聴ガイド
はじめに
当ブログ「ねことシネマ」にお越しいただきありがとうございます。今回はデイミアン・チャゼル監督のミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』を取り上げたいと思います。実は今日、仕事で少しぐったりしてしまい、「映画を観る気力があまり湧かないかも……」という気分でした。そこで「観返さなくても語れるくらい大好きな作品って何だろう?」と考えたところ、ふと浮かんだのが本作だったんです。
実際、『ラ・ラ・ランド』は私にとって人生トップ10に入るほど思い入れのある一本です。過去に同じチャゼル監督の『セッション』を記事で取り上げたこともありますが(過去記事はこちら)、『ラ・ラ・ランド』はまた違った“カラフル”で“幻想的”な魅力が詰まっています。昨年はシネマオーケストラコンサートにも参加し、ジャスティン・ハーウィッツ指揮の生演奏に心を揺さぶられました。そのときは本当に涙が出そうになり、「やっぱりこの映画が好きだ」と再認識したほどです。今回は、そんな大好きな作品を改めて振り返りつつ、その魅力をたっぷりとお伝えしていきます。

あらすじ
前作「セッション」で注目を集めたデイミアン・チャゼル監督が、本作ではロサンゼルスを舞台にしたミュージカルを制作。オーディションに落ち続けても前を向こうとする若手女優のミアと、こだわりが強すぎるジャズピアニストのセバスチャンが偶然顔を合わせ、最初は反発し合いながらも次第にその才能と情熱に惹かれていく。名作ミュージカル映画を思わせる華やかな演出に、モダンな感覚が巧みにブレンドされていて、夢を追う苦しさと甘酸っぱいロマンスが同時に楽しめる。
『ラ・ラ・ランド』が特別な理由(魅力ポイント)
色彩とカメラワークが生む“映画愛”
『ラ・ラ・ランド』の冒頭では、画面比率が2.55:1に広がります。これは1950年代のシネマスコープ55を彷彿とさせる形式で、チャゼル監督の“古き良き映画”への愛がビシビシ伝わってくる仕掛けです。さらに映像自体も、フィルムらしいざらつきや、いわゆる“純天然色”を思わせる原色の多用が特徴的。テクニカラー時代のミュージカル映画は「カラーならではの鮮やかさを最大限に活かす」という精神があったそうですが、本作にもまさに同じ熱意が感じられます。
たとえばミアとルームメイトたちがカラフルなドレスで街に繰り出すシーン。黄色・緑・赤・青といった原色が画面いっぱいに広がるだけで「うわぁ、これぞミュージカル!」と思わずテンションが上がってしまうのです。

マジックアワー撮影とミュージカルの融合
映画の前半で特に印象的なのは、夕暮れの丘で二人が踊る「A Lovely Night」。あの空の微妙なグラデーションは、いわゆる“マジックアワー”と呼ばれる短い時間帯に撮影されたものです。刻々と変わる自然光の中で、エマ・ストーンが歌いながら当たり前のようにダンスシューズに履き替え、そのままタップダンスへ移行する流れが秀逸。現実から一歩踏み出す瞬間を、音楽と夕暮れ空が一体となって演出しているのですね。
ただ、この時間帯の撮影はかなり難しく、数分で光の状態が変わってしまいます。それでもあれほど美しいシーンを撮りきるのは相当なリハーサルと技術が必要なはず。チャゼル監督が『セッション』や『バビロン』でも見せている“こだわり”と“根性”が、この作品の随所に感じられます。実際、バーのシーンなどでのクイックパン(画面を一瞬でパンさせる撮り方)も相当凝っていて、「ここはセッションでもやってた手法だな」とニヤリとしてしまいました。

クラシック作品へのオマージュ
本作にはクラシックなミュージカル作品へのオマージュが数多く散りばめられています。たとえば丘で踊る最中、セバスチャンが電灯のポールにつかまってクルッと回る仕草は、ジーン・ケリー主演の『雨に唄えば』における有名な“雨の中のダンス”シーンの再現。あえて「意味もなく」やっているように見えますが、こういう遊び心がミュージカル好きにはたまらないんですよね。
個人的には、中盤のクライマックスであるプラネタリウムでの舞踏シーンが大好きです。ハンカチがふわっと浮き上がって、そのまま二人までもが宙を漂うように舞い始める――現実ではあり得ない光景なのに、映画という魔法の力で「あり得るかも」と思わされる。一瞬にしてラ・ラ・ランド(夢心地)の世界に連れ去られてしまいます。
音楽とダンス:等身大の魅力
ジャズを救いたい男の熱意
音楽を語るうえで欠かせないのが、セバスチャンの「ジャズを救いたい」という想いです。実際、ライアン・ゴズリングはこの役のために数ヶ月かけてピアノを猛練習したとか。劇中の演奏シーンはすべて本人が弾いていると聞き、あらためて驚かされます。もちろんプロのジャズピアニストのレベルとは違いますが、“本当に演奏している”という映像の説得力は強いですよね。
また、チャゼル監督自身がジャズ好きとあって、「古き良きジャズを守りたいセバスチャン」と「商業的に成功するためにジャズをポップス寄りに進化させるキース(ジョン・レジェンド)」という対比が丁寧に描かれています。特にキースのバンドでセバスチャンが参加しているライブシーンは、音楽的なギャップの大きさに苦々しい気持ちが伝わってきて印象的。彼がどこか妥協しているように見えてしまい、それをミアが複雑そうに見つめる……という構図が、恋愛とキャリアのもつれを象徴しているようです。
キャストが歌い踊る“リアル”なパフォーマンス
本作には「City of Stars」や「Another Day of Sun」「Audition (The Fools Who Dream)」など、印象深いオリジナル曲がたくさん登場します。ジャスティン・ハーウィッツ作曲のこれらのナンバーは、耳に残るメロディとちょっと切ない雰囲気が相まって、一度聴いただけで口ずさみたくなる魅力があります。
エマ・ストーンとライアン・ゴズリングの歌やダンスは、ブロードウェイのトップスターほどの超絶技巧というわけではありませんが、むしろそれが“等身大の魅力”として活かされていると感じます。二人とも、完璧に歌い踊るというよりは「キャラクターが自然と歌ってしまう」という表情演技が素晴らしい。観る側も「この人たちは生身の人間なんだ」と感じられるので、感情移入しやすいんですよね。
オーディションでミアが歌う「Audition (The Fools Who Dream)」は、本作のクライマックスの一つ。スポットライトを浴びながら、彼女が自分の物語を切々と歌い上げる場面は鳥肌モノです。実際、エマ・ストーンがこの演技でアカデミー主演女優賞を獲得したのも納得できます。
恋愛ドラマの本質:夢と恋の行方
“夢を追う苦しさ”と“甘酸っぱい別れ”
物語終盤、ミアのオーディションが大成功しそうなタイミングで、二人はグリフィス天文台に向かいます。そこは、かつて『理由なき反抗』の映画館デートからの流れで訪れ、プラネタリウムで愛を深めた思い出の地。しかし今や二人の心には過去のような高揚感はありません。お互いに「夢を追うなら、この道を進むしかない」と理解しつつ、「ずっと愛してる」という気持ちを確認し合うのが切ない。
特に印象的なのが「この景色、ひどい景色だね」という言い回し。かつては愛を深めた場所だったのに、いまの二人にとってはもう取り戻せない時間の象徴のようにも思えます。「ああ、これで二人はお別れになるんだな」と悟ってしまう、なんとも言えない大人の苦味。観ていて胸が痛くなりました。
“あったかもしれない未来”を描く空想シーン
クライマックスの夢のようなシーンは、『パリのアメリカ人』を始めとした古典的ミュージカル映画のラストバレエを思わせます。「もしも二人が別の選択をしていたら……」という、いわば“ラ・ラ・ランド”な空想を、華麗な映像と音楽だけで描き切ってしまう。
この演出は、観ている側としては「ああ、こんな未来もあったのか」と思うと同時に、「でも、それはあくまで夢でしかない」と痛感させられます。過去には戻れないし、選ばなかった道を現実にすることはできない。でもその儚さがあるからこそ、本作のラストには後味の良い切なさが残るのだと思います。
恋愛の本質と前向きな余韻
本作で描かれる恋愛は、純粋な幸せだけでは終わりません。結果的に二人は別々の道を歩むことになりますが、決して「不毛な時間だった」というわけではないんですよね。むしろ、相手と過ごした時間があったからこそ、それぞれが夢を掴めた。別れを選んだとしても、その経験はずっと自分の中に生き続ける――それは『500日のサマー』や『花束みたいな恋をした』などでも繰り返し描かれるテーマで、「恋愛とは、自分にないものを相手からもらうことで成長する」という考えに通じます。
実際、観ていると「ああ、こういう別れ方ってあり得るよな」と思わされます。生活や夢が変化していく中で、どうしても付き合い始めの気持ちに戻れなくなる瞬間はある。そんな現実を見せつつも、決して暗くは終わらないのが『ラ・ラ・ランド』のいいところです。ラストの視線の交わし方には、言葉にできない温かみが宿っています。

アカデミー賞での“事件”と『ムーンライト』
ご存じの方も多いかもしれませんが、『ラ・ラ・ランド』は第89回アカデミー賞で14部門ノミネートの快挙を成し遂げ、うち監督賞や主演女優賞など6部門を受賞。ところが作品賞の発表で、いったん間違えて本作の名が呼ばれたあと「やっぱり『ムーンライト』でした」という前代未聞のハプニングが起きました。
あのときは私も「本当に取れるかも!」とドキドキしていただけに、ある意味忘れられない授賞式になりました。その後、『ムーンライト』を見返すと、確かにこちらも心を揺さぶられる名作だと再認識。あの年は本当に素晴らしい作品が揃っていたのだなと思います。
まとめ
こうして振り返ってみると、『ラ・ラ・ランド』は映像・音楽・ストーリーのどれをとっても「映画愛」に溢れた作品だと感じます。シネマスコープの画角、テクニカラー的な原色づかい、往年のミュージカルへのオマージュから、ジャズをめぐる物語構造、そしてクライマックスの切ない空想シーンに至るまで――細部にちりばめられた要素が、観るたびに新鮮な発見や感動を与えてくれます。
また、恋愛部分についても「夢と現実」「愛とキャリア」の間で揺れ動く繊細な人間模様が描かれていて、大人になればなるほど響くものがある作品ではないでしょうか。実際に私自身、時期によってこの映画の見え方が変わり、“心に沁みるポイント”も少しずつ変わってきました。それだけ“観る人の人生経験”を映し出すような普遍性を持っている作品なのだと思います。
もしまだ観ていない方がいましたら、ぜひ一度その映像美と音楽の魔法に身を委ねてみてください。逆にもう観たことがある方は、別のタイミングで観返すと、きっと新たな魅力に気づけるはずです。
最後までお読みいただきありがとうございました。映画館で観られる機会があればもちろん最高ですが、配信やソフトでも十分に楽しめる名作なので、ぜひ“夢のロサンゼルス”へ飛び込んでみてくださいね。感想やご意見などありましたら、コメント欄で気軽にお寄せいただけるとうれしいです。それでは、また次回の「ねことシネマ」でお会いしましょう。
外部リンク
- IMDb『La La Land』
キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。