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【ネタバレあり】『もののけ姫』IMAX 4Kリマスター版レビュー。「曇りなき眼」で今こそ観るべき理由と、圧巻の劇場体験。

映画『もののけ姫』基本データ

  • 監督・脚本・原作: 宮崎駿
  • プロデューサー: 鈴木敏夫
  • 音楽: 久石譲
  • 主な声の出演:
    • 松田洋治(アシタカ)
    • 石田ゆり子(サン)
    • 田中裕子(エボシ御前)
    • 小林薫(ジコ坊)
    • 美輪明宏(モロの君)
    • 森光子(ヒイさま) ほか
  • 公開年: 1997年7月12日(日本)
  • IMAX 4Kデジタルリマスター版公開: 2025年10月24日(期間限定)
  • 上映時間: 133分
  • 主な受賞歴:
    • 第21回日本アカデミー賞 最優秀作品賞
    • 第70回アカデミー賞 外国語映画賞(当時の名称)日本代表作品 ほか
  • 視聴方法(2025年10月現在):

この記事でわかること

  • 『もののけ姫』IMAX 4Kリマスター版の具体的な感想(映像と音響)
  • 97年制作のアニメがIMAXの大スクリーンでどう見えたか
  • 他のジブリ作品と比べて、なぜ『もののけ姫』が「重い」と感じられるのか
  • 「自然 vs 人間」という単純な構図ではない、作品の奥深いテーマ
  • 「悪役」がいない世界で、それぞれの「正義」が衝突する悲劇性
  • 多くを「失うこと」で得られる、結末の本当の意味

はじめに

こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。 数ある映画ブログの中から、この記事を見つけてくださって本当にありがとうございます。

今回は、宮崎駿監督の不朽の名作『もののけ姫』について語りたいと思います。

「なぜ今、もののけ姫?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。 ご存知の方も多いかと思いますが、本作は2025年10月24日から、IMAXシアター限定で4Kデジタルリマスター版が上映されているんです。

オリジナル版の公開が1997年。実に28年の時を経て、4Kデジタルリマスター、しかもIMAXという最高の形でスクリーンに蘇りました。 この作品を初めて観るという方は少ないかもしれませんが、それでも大スクリーンと良い音響で体験する『もののけ姫』は、格別なものになるに違いありません。

この貴重な機会を逃すわけにはいかないと、私も公開2日目の10月25日に劇場へ足を運んできました。

(C)1997 Studio Ghibli・ND

先に感想を申し上げてしまうと、「素晴らしかった」この一言に尽きます。

私自身、実は他のジブリ作品に比べると『もののけ姫』を観た回数は、正直なところ多くありませんでした。 例えば『天空の城ラピュタ』や『千と千尋の神隠し』はブルーレイも持っていて何度も見返していますが、『もののけ姫』に関しては、そこまでの熱意はなかったんです。

その要因の一つは、やはり他のジブリ作品と比べて圧倒的に「重い」からでしょう。 「生きろ。」というキャッチコピーはあまりにも有名ですが、その言葉が持つ意味は、決して軽やかなものではありません。

今回、IMAXという最高の環境で真正面からこの作品と向き合い、その「重さ」の正体や、28年経っても色褪せない圧倒的な「凄み」を再認識させられました。

この記事では、まずIMAX 4Kリマスター版の体験がどれほど凄まじかったか、そして改めて気づかされた『もののけ姫』という作品の奥深さについて、私なりの感想や解釈を綴っていきたいと思います。

あらすじ

室町時代。北の果てのエミシ一族の村に暮らす青年アシタカは、村を襲ったタタリ神を退治した際に死の呪いを受けてしまいます。

呪いを断つ方法を求め、西に向かって旅に出たアシタカは、やがて「タタラ場」と呼ばれる製鉄所に辿り着きます。

その道中、森の中で犬神に育てられた少女サンと出会いますが、人間を嫌うサンに「森から去れ」と警告されます。 タタラ場に辿り着いたアシタカは、人間たちが生きていくために森を切り開いたことで、サンや犬神たちの怒りを買っていることを知るのですが――。

作品の魅力

ここからは、作品の核心に触れる部分が多くなります。すでにご覧になっている方がほとんどかと思いますが、念のためご注意ください。
※以下、物語の結末を含むネタバレがありますのでご注意ください。

なぜ『もののけ姫』は「重い」のか

今回のIMAX再上映にあたって行われた舞台挨拶でも、声優の皆さんや鈴木敏夫プロデューサーが「(となりのトトロなどに比べ)一般受けしない」といった旨の発言をされていました。(動画はこちら

『となりのトトロ2』なら大ヒットは間違いないでしょうが、これほどダークで重いテーマの『もののけ姫』が、当時日本で193億円もの興行収入を記録したのは、本当に読めなかったと。

今回改めて見直して、「これが大ヒットするとは、当時の日本の映画リテラシーは本当にすごかったんだな」と素直に思いました。 もちろん「スタジオジブリ」という絶大なブランド力はありますが、この作品の質の高さ、描いているテーマの重さを真正面から受け止めて評価できた日本の観客は素晴らしいと思います。

では、その「重さ」はどこから来るのでしょうか。 あらすじだけを見ると、「森を破壊する人間」と「森を守るサンたち」の対立を描き、「自然を大切にしよう」という着地点を想像しがちです。 しかし、この作品の凄みは、そんな単純な二元論では決して語れない、さらにその先まで踏み込んでいる点にあると、私は感じています。

(C)1997 Studio Ghibli・ND

今回見返して強く感じたのは、この物語が「人間のエゴ」や「醜さ」を、ナイフのように鋭くえぐり出しているということです。

物語が進むにつれ「自然 vs 人間」の争いが表面化しますが、それだけではありません。 後半、シシ神退治で男たちが出払ったタタラ場を、地頭の侍たちが襲撃するように、「人間同士の戦争」もしっかりと描かれます。

「自然 vs 人間」の争いの根底にある「人間の欲望」は、自然だけではなく、当然のように人間にも向けられる。 この人間のエゴを浮き彫りにする反戦映画的な側面と、ジブリが得意とするファンタジーの要素を織り交ぜ、少しも破綻なく描き切る手腕は、さすがとしか言いようがありません。

133分という上映時間ですが、最初から最後まで集中力が途切れる瞬間がなく、改めて「終始面白い」と感じました。素晴らしい映画は本当に無駄がないものです。

「悪役」がいない世界で衝突する「正義」

本作のテーマがこれほどまでに重厚な最大の理由は、ディズニー映画のような「明確な悪役」が存在しないことだと、私は考えています。 これは光と闇の戦いではありません。全ての主要人物が、自分たちのコミュニティにとっての「正当な真実(=正義)」を信じて行動している。 誰かが絶対的に悪なのではなく、それぞれの正義が、相容れない故に衝突する。だからこそ、この物語はこれほどまでに痛ましく、悲劇的なんです。

タタラ場を率いる「エボシ御前」の正義

エボシ御前は、一見すると森を破壊する「悪役」のように見えます。 しかし彼女は、封建社会の最下層に追いやられた人々――かつての遊女や、当時は不治の病とされたハンセン病患者たち――に仕事と尊厳を与え、匿う「タタラ場」という共同体を率いる、先進的な指導者であり、革命的な人道主義者でもあります。

彼女の行動は、敵意に満ちた世界から「自分の民を守る」という強烈な意志に貫かれています。 その民を生かすためには鉄が必要で、鉄を作るためには森の木が必要になる。その結果、森の神々と対立することになる。 彼女の行動は、共同体を守るための、苦渋に満ちた「現実主義」に基づいているんです。

森の聖女「サン」の正義

(C)1997 Studio Ghibli・ND

対するサンは、自然の荒々しい魂、まさに「もののけ」そのものです。 彼女は人間でありながら山犬の神モロに育てられ、人間を「森を侵す敵」として強く拒絶します。 彼女の憎しみは、単なるヒステリーではありません。故郷の森を破壊され、育ての家族(モロたち)の居場所を奪われたことから生まれた、あまりにも切実な叫びです。 エボシを殺し、人間を森から駆逐しようとする彼女の行動は、愛するものを守るための、絶望的で純粋な「自己防衛」なんです。

呪われた調停者「アシタカ」

アシタカは、この物語の道徳的な支点です。 彼はどちらの側にもつかず、ただ「曇りなき眼で見定め、決める」ために旅をします。 エボシの正義も、サンの正義も、どちらも理解できてしまう。だからこそ彼は、憎しみの連鎖を断ち切ろうと奔走し、誰よりも苦悩します。

私自身、昔観た時は、登場勢力も多く、それぞれの立場や主張が概念的で少し難しい印象がありました。 しかし今回、劇場という集中できる環境で、登場人物たちのセリフを一言一句聞き逃さず、その意味を噛み締めながら観ていると、彼らが語る言葉の真意――それぞれの「正義」が、スッと胸に入ってくる瞬間がありました。 これも、劇場で観たからこその大きな発見だったと思います。

「神殺し」とシシ神が象徴するもの

本作で最も謎めいた存在が「シシ神」です。 シシ神は、私たち人間がイメージするような「善悪」や「道徳」を完全に超越した存在として描かれています。

(C)1997 Studio Ghibli・ND

その最初の登場シーンで、シシ神は一歩ごとに生命を与え、そして奪っていきます。 これは、誕生、成長、死、そして腐敗という、私たちが抗うことのできない「生命の循環プロセス」そのものを象徴しているように感じられました。

だからこそ、クライマックスの「神殺し」は強烈なメタファーとなります。 首を刎ねられたシシ神は「デイダラボッチ」という破壊の権化と化し、森も人間も無差別に飲み込んでいきます。

これは神の「怒り」や「復讐」というよりも、生態系のシステムの中核(=シシ神)が取り除かれたことによる、「臨界点」を超えたシステムの暴走そのものに見えました。 かつて自らが体現していた森さえも飲み込む、死の連鎖反応です。

アシタカが最後に語る「シシ神は死にはしない。生命そのものだから。生と死と、二つとも持っているもの」というセリフは、この作品の世界観そのものを表していると感じます。

「失うこと」で得られる真の平和

物語のラスト、アシタカとサンによってシシ神の首は返され、世界には緑が戻ります。 一見すると丸く収まったハッピーエンドのように見えますが、表面的な部分以外に目を向けると、失ったものの方が遥かに多いことに気づかされます。

タタラ場は侍との戦いで焼け落ち、森は伐採され、神々は力を失いました。 サンは母であるモロを失い、エボシ御前は右腕を失いました。

「真の平和」や「真の和解」のためには、誰もが何かを失わなければならない――。 この作品から、その重い現実を再認識させられました。

これは以前、当ブログで『ヒックとドラゴン』の記事(こちら)を書いた時にも触れましたが、あちらの物語も、ドラゴン(トゥース)が尾翼を、人間(ヒック)が片足を失います。 失ったものがあるからこそ、お互いに支え合う必要性に気づき、そこで初めて真の平和が訪れる。このテーマは、優れた物語に共通して流れていると感じます。

『もののけ姫』のラストも、アシタカとサンが完全に和解して結ばれるわけではありません。 アシタカは「タタラ場で生きる」、サンは「森で生きる」。 「共に生きよう」と誓いながらも、それぞれ別の世界で生きていくという、困難で不確かな「共存」の道を選ぶのです。 これこそが、『ナウシカ』のような救世主による大団円ではない、宮崎監督が提示した、どこまでも現実的で冷静な結論なのだと思います。

圧巻のIMAX 4Kリマスター体験

さて、ストーリーについてはこのくらいにして、肝心の「IMAX 4Kリマスター版で観てどうだったのか」という点に、詳しく触れていきます。

映像:97年アニメはIMAXに耐えうるか?

まず映像ですが、当然ながら97年当時にIMAX向けに作られたわけではないため、スクリーン比率(1.9:1)では左右が余る「額縁上映」になります。 しかし、これは観ているうちに全く気にならなくなりました。

それ以上に私が少し不安だったのは、「97年のセルアニメ作品が、現代のIMAXという超大スクリーンに耐えうるのか?」という点でした。

結論から言えば、それは全くの杞憂でした。これは、97年当時のセル画が持つ圧倒的な描き込みと、それを高精細に蘇らせた4Kリマスター技術の、見事な相乗効果だと感じました。 CGに頼らない「手描き」の凄まじい情報量が、IMAXの解像度で一切破綻せず、むしろ魅力が倍増していたのです。 私はリアルタイム世代ではないため、スクリーンで本作を観ること自体が初の体験でした。だからこそ、その迫力に純粋に圧倒されたのかもしれません。

(C)1997 Studio Ghibli・ND

そして、IMAXとの相性が抜群だったのが、クライマックスの「デイダラボッチ」のシーンです。

IMAX上映は、ジョーダン・ピール監督の『NOPE/ノープ』が象徴的だったように、「スクリーンを(恐怖と共に)見上げる」体験にこそ真価があると思っています。 シシ神がデイダラボッチとして森を歩くその姿は、通常のスクリーンでは味わえない、まさに見上げてしまうような、神々しくも恐ろしい迫力がありました。このシーンは必見です。

音響:研ぎ澄まされたサウンドデザイン

IMAXのもう一つの要素は「音響」です。 ドルビーシアターのような繊細さというよりは、「音圧」で迫ってくるイメージがありますが、『もののけ姫』もその良さが存分に発揮されていました。

久石譲さんの素晴らしい劇伴が、全身を包み込むように響き渡る…もう、これだけでもIMAX料金の価値はあります。 しかし私が思わず息をのんだのは、むしろ「サウンドデザイン」そのものの巧みさです。

アシタカが弓を射るシーン。 弓を引き絞る「ギシギシ」という音、矢が風を切って放たれる「ビュン」という音、そして標的に刺さる「ブスッ」という生々しい音。 こうした一つ一つの効果音が、IMAXシアターならではの凄まじい「圧」を持って響き渡る。アシタカが放つ矢の重みを、観客席で追体験するような感覚です。「良い映画は音響も良い」ということを、肌で再確認させられました。

また、コダマたちが首を振る「カラカラカラ…」という独特の音も、映画館で聴くと本当に不気味な森の中で囲まれているような臨場感があります。

これぞまさに、金曜ロードショーでは得られない、劇場でしかできない体験です。

まとめ

サンというヒロインの立場は、ディズニーの『ジャングル・ブック』のモーグリに近いかもしれません。 しかし本作は、「獣と人間のどちらに属すか」というテーマだけに甘えず、その先にある「人間の汚い部分、混沌としたカオス」までを容赦なく描いています。

そして、その人間の混沌を、「神作画」と呼ぶべきスタジオジブリの美しくも生々しいアニメーション(弓で首や腕が飛ぶといった、残忍な描写も含めて)で映像化している。本当に素晴らしい作品です。

『もののけ姫』は、観るたびに新しい発見がある、非常に奥深い作品です。 今回のIMAX上映を機に初めて観る方も、私のように何度も観ている方も、この4Kリマスター版には劇場で体験する価値が絶対にあります。

上映期間はそれほど長くないと思われますので、ぜひこの機会に足を運んでみてください。 ちなみに、私が見た回もかなり多くのお客さんが入っていました。IMAX料金で通常より少し高いにもかかわらず、これだけ人が入ることに驚くと同時に、お子さん連れの方から当時劇場で観たであろう年代の方まで、客層が幅広く、本当に愛され続けている作品なのだと実感しました。

神々が去り、多くを失った世界で、それでも「生きろ。」と命じる。 その重く、力強いメッセージを、IMAXの圧倒的な体験と共に、ぜひご自身の「曇りなき眼」で見定めてみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。 あなたはこの映画のどんなところが好きですか?あるいは、IMAX版をご覧になった感想など、ぜひコメントで教えていただけると嬉しいです!

  • IMDb『もののけ姫』
    キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。
  • この記事を書いた人

HAL8000

映画と猫をこよなく愛するブロガー。 多いときは年間300本以上の映画を観ていて、ジャンル問わず洋画・邦画・アニメ・ドキュメンタリーまで幅広く楽しんでいます。

専門的な批評はできませんが、ゆるっとした感想を気ままに書くスタンス。 ブリティッシュショートヘア×ミヌエットの愛猫ハルも自慢したいポイントで、レビューの合間に猫写真や日常もたまに紹介しています。

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