映画『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』基本データ
- 原題: Fantastic Four: First Steps
- 監督: マット・シャックマン
- 主要キャスト:
- ペドロ・パスカル(リード・リチャーズ/ミスター・ファンタスティック)
- ヴァネッサ・カービー(スー・ストーム/インビジブル・ウーマン)
- ジョセフ・クイン(ジョニー・ストーム/ヒューマン・トーチ)
- エボン・モス=バクラック(ベン・グリム/ザ・シング)
- ジュリア・ガーナー(シャラ・バル/シルバーサーファー)
- ラルフ・アイネソン(ギャラクタス)
- 日本公開日: 2025年7月25日
- 上映時間: 115分
- 視聴方法(2025年7月現在):
- 全国の劇場で公開中
この記事でわかること
- MCU最新作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』の詳しいあらすじ(※ネタバレあり)
- 実際に鑑賞した率直な感想と、なぜ「面白いけど期待しすぎた」と感じたのか
- 多くの批評家が絶賛する、キャスト陣が織りなす「家族の絆」の素晴らしさ
- 『ワンダヴィジョン』の監督が創り上げた、唯一無二の「レトロフューチャー」な映像美の秘密
- 本作がMCUの「原点回帰」であり、新規ファンにとって最高の入口である理由
はじめに
こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。 今回は、2025年7月25日に公開されたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の最新作、『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』について語りたいと思います。
私は公開2日目の土曜日に、IMAXで鑑賞してきました。MCUファンとしてはもちろん観る予定でしたが、それ以上に私の背中を押してくれたのが、公開直後の批評サイト「Rotten Tomatoes」のスコアです。およそ90%という非常に高い評価を見て、「これは安心して観に行けるな」と期待を胸に劇場へ向かったのを覚えています。
観終わった直後の正直な気持ちは、「うん、面白い。でも…期待値上げすぎちゃったかも?」でした。もちろん素晴らしいシーンの連続だったんですが、あまりに前評判が高かったので「MCU史に残る傑作だ!」と構えすぎてしまったのかもしれません。結果的に「すごく良くできた、でも王道のヒーロー映画」という着地でした。
しかし、なぜそう感じたのか、そしてその「無難さ」を補って余りあるほどの魅力とは何だったのか。本作は、これまでのMCU作品が背負ってきた歴史の重みから解き放たれ、新しい一歩を踏み出す、まさに「ファースト・ステップ」にふさわしい希望に満ちた一作でした。
この記事では、物語の核心に触れる【ネタバレあり】で、その魅力と少し気になった点を、私なりの視点でじっくりと掘り下げていきたいと思います。これから観る方の参考にも、もう観た方の振り返りにもなれば嬉しいです。
あらすじ
※以下、物語の核心的なネタバレを含みますのでご注意ください。
宇宙ミッション中の事故によって特殊能力を得た4人は、その力と正義感で人々を救うヒーローチーム「ファンタスティック4」として、世界的な名声を得ていました。
チームリーダーで天才科学者のリード・リチャーズ(ミスター・ファンタスティック)は、ゴムのように自在に伸縮する体を操ります。彼の妻であり、チームの精神的支柱でもあるスー・ストーム(インビジブル・ウーマン)は、透明化や強力なエネルギーシールドを使いこなす冷静沈着な人物。スーの弟で、炎を操り高速で空を駆け抜けるジョニー・ストーム(ヒューマン・トーチ)は、陽気なムードメーカーです。そして、リードの親友であるベン・グリム(ザ・シング)は、岩のように強固な体と怪力を持ちながらも、その姿に葛藤を抱える心優しい人物でした。
すでに世界中から愛され、固い絆で結ばれた彼らは、スーの妊娠という知らせに喜びに包まれます。しかし、リードが宇宙に向けて発信した一つのメッセージがきっかけで、星々を喰らい尽くす規格外の宇宙的存在「ギャラクタス」の脅威が地球に迫ることに。
滅亡へのカウントダウンが始まる中、ヒーローである前に一人の人間として、そして一つの「家族」として葛藤する4人は、この未曾有の危機に立ち向かいます。
作品の魅力
ここからは、私が本作を鑑賞して特に心を揺さぶられたポイントや、少し気になった部分について、個人的な解釈も交えながら掘り下げていきたいと思います。

唯一無二の映像美:『ワンダヴィジョン』の才能が炸裂するレトロフューチャー
本作を語る上で絶対に外せないのが、その圧倒的な映像美です。予告編の時点からただならぬ雰囲気を醸し出していた「レトロフューチャー」な世界観。「古いのに未来的」という、言葉で説明するのは難しい絶妙なバランスが、全編を通して見事に表現されていました。
ブラウン管のような形のテレビ、どこか懐かしさを感じさせる温かみのある色使い、それでいてバクスター・ビルディングの内部や宇宙船のデザインは紛れもなくSF。この唯一無二の世界観は、正直、スクリーンで浴びるだけでもチケット代の元が取れる。私はそう感じました。
この映像美の秘密はどこにあるんだろう?と思ったら、監督の名前を見て「なるほど、納得!」と膝を打ちました。手がけたのは、あの名作ドラマ『ワンダヴィジョン』のマット・シャックマン監督です。彼は、シットコムという懐かしいテレビ番組のスタイルを巧みに利用して、悲しみという普遍的なテーマを描き切りました。
本作でもその手法は健在で、1960年代に夢見られた未来像のような「レトロフューチャー」という様式美を器として、その中で「家族愛」という極めてパーソナルな物語を語ることに成功しています。
さらに調べてみると、この世界の建築家であるプロダクションデザイナーのカスラ・ファラハニ氏も、ドラマ『ロキ』で独特のミッドセンチュリー風デザインを確立し、高く評価された人物でした。MCUが近年、一部で指摘されていた「映像の均質化」から脱却しようとする中で、すでに実績のあるクリエイターを起用した、これは「この映画は今までとは違う」という製作陣の明確な意志表示だったのかもしれません。
スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』が持つ静謐なSF感と、原作コミックの生みの親であるジャック・カービーが描くダイナミックなデザインが融合したような、ポップで、美しくて、どこか可愛いこの世界観は、観る者の心を鷲掴みにします。
作品の心臓部:完璧なキャストが織りなす「本物の家族」
そして、この美しい世界の中で躍動するキャラクターたちの魅力こそが、本作の真の心臓部です。
これまでの『ファンタスティック4』の映画化作品が、なぜか上手く描けずにいた「家族」という側面。本作は、ペドロ・パスカル、ヴァネッサ・カービー、ジョセフ・クイン、エボン・モス=バクラックという4人の主演俳優が見せる、疑いようのない化学反応によって、初めてその核心をスクリーンに映し出すことに成功しました。
物語の中盤、ギャラクタスがファンタスティック4に対して「究極の二択」を迫るシーンがあります。これは、彼らの「家族としての力」が試される場面であり、観ている私たちも「自分ならどうするか」と考えさせられる、非常に重い問いかけです。この問いに対して映画が示す一つの答えが、本作のテーマである「家族愛」や「共に困難に立ち向かうこと」と深く結びついており、この構成の見事さによって、観終わる頃にはきっと、あなたもこの4人のことが大好きになっているはずです。
少し踏み込んでみると、批評家の間でもこの4人のアンサンブルは絶賛の嵐のようです。
- リード・リチャーズ(ペドロ・パスカル): 天才ゆえに神経質で、どこか上の空。でも根は温かい父親のような存在感で、映画全体の確かな土台となっています。
- スー・ストーム(ヴァネッサ・カービー): 多くの批評で「本作のMVP」と評されるほどの圧巻の存在感。知的で、力強く、そして母性を宿していく過程を繊細に演じきり、物語の感情的な錨として機能していました。彼女がいなければ、この家族は成り立ちません。
- ジョニー・ストーム(ジョセフ・クイン): 自信過剰なプレイボーイという紋切り型を軽やかに回避し、どこか探求者のようなクレバーさと、いざという時の利他性も感じさせる魅力的なキャラクターに昇華させていました。
- ベン・グリム(エボン・モス=バクラック): 岩の体を持つ悲劇的なヒーローに、これまでにない魂と親しみやすさをもたらしました。特にジョニーとの軽妙なやり取りは、最高の癒やしです。
彼らが織りなす空気感はあまりに自然で、本当に長年連れ添った家族のように見えました。この「本物の家族」を描き出せたことこそ、本作最大の功績と言えるでしょう。
面白い、でも「無難」?物語の功罪とMCUの原点回帰
映像も素晴らしく、キャラクターも最高。では、なぜ私が冒頭で「期待しすぎたかな」「無難なヒーロー作品」と述べたのか。それは、シナリオ、つまり物語そのものに理由があるように感じます。
ポジティブに言えば「分かりやすい」、ネガティブに言えば「単純すぎる」のです。 奇しくも、現在公開中のDC映画でジェームズ・ガン監督が手掛けた『スーパーマン』(過去記事はこちら)は、本作と批評家スコアがほぼ同じでした。しかし『スーパーマン』が「現代におけるヒーローとは何か」を再定義するような挑戦的な作品だったのに対し、本作には物語の新しい地平を切り拓くような意外性は見られませんでした。また、MCUの前作にあたる『サンダーボルツ』(過去記事はこちら)が、ヴィランたちの精神的な葛藤に寄り添うという斬新なアプローチで非常に面白かったことも、本作への期待値を上げていた一因かもしれません。
では、なぜ物語はここまでシンプルなのでしょうか。実はこの「分かりやすさ」こそ、製作陣の明確な「狙い」だったようです。複雑化しすぎたユニバースに「もう追えない…」と感じていたファンへの、最高の処方箋。本作は「予習一切不要!」で飛び込める、MCUからの新しい招待状なのです。
その結果、物語は「惑星を喰らう神ギャラクタスが、リードとスーのまだ生まれぬ息子フランクリンの強大な力を求めて地球に来る」という、非常に個人的な家族のドラマに焦点が絞られました。このおかげで、私たちは複雑な設定に悩まされることなく、4人の感情に没入できます。
一方で、この単純化の代償として、物語の深掘りがやや物足りなく感じられたのも事実です。例えば、シルバーサーファーやギャラクタスといった敵役の背景や動機はあまり語られず、ベンの孤独やロマンスも、もう少し丁寧に描いてほしかった、というのが正直な感想です。
この「1本の映画として完結しているけれど、次への布石もしっかり残していく」スタイルは、どこか初期のMCU作品群(『アイアンマン』や『マイティ・ソー』など)を彷彿とさせます。まさに「ファースト・ステップ」というサブタイトルにふさわしい、MCUの原点回帰と言えるでしょう。
ただ少し懸念を言うと、初期のMCU作品がそうであったように、「単体の映画として傑作かと問われると、少し首をかしげてしまう」という側面まで似てしまっている気もしました。
まとめ
『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』は、過去の映画化の呪いを完全に打ち破り、MCUに新たな希望の光を灯した、自信に満ちた美しい映画でした。
マット・シャックマン監督が作り上げた唯一無二のレトロフューチャーな世界観と、完璧なキャスト陣による「本物の家族」の描写は、間違いなく最高レベルの完成度です。しかしその一方で、より多くの観客に届けるために選択された「物語の単純さ」が、傑作の領域にあと一歩届かなかった要因かもしれません。
とはいえ、4人の主要メンバーそれぞれに見せ場があり、誰もが感情移入できるキャラクターになっていることは保証します。彼らがこれからアベンジャーズといった他のヒーローたちと合流する時を想像すると、今から鳥肌が立ちます。
ケヴィン・ファイギ社長が『アベンジャーズ/シークレット・ウォーズ』で一度キャストをリセットすると公言している中で、このチームが今後どうなるかは未知数です。しかし、そんなことを抜きにしても、「最近のマーベル映画は追えていないな…」と感じている方には、最高の復帰作であり、入門作です。ここ最近では一番MCUに入りやすいタイミングかもしれません。
ポップでレトロ、美しくてどこか可愛い。この魅力的な世界で踏み出す、新しいヒーローたちの「第一歩」。この輝かしい瞬間は、ぜひ劇場の大スクリーンで見届けてあげてください。観終わる頃には、あなたもこの家族のことが、きっと愛おしくてたまらなくなるはずです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました! あなたはこの映画のどんなところが好きですか?ぜひコメントで教えてください!
- IMDb『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』
キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。