映画『あの歌を憶えている』基本データ
- タイトル
『あの歌を憶えている』 - 原題
Memory - 公開年
2025年2月21日(絶賛公開中) - 監督
ミシェル・フランコ(Michel Franco) - 主演
- ジェシカ・チャスティン(シルヴィア役)
- ピーター・サースガード(ソール役)
- ほか主要キャスト:メリット・ウェバー(オリヴィア役)など
- 上映時間
103分 - 主な受賞・映画祭出品
- 第80回ヴェネツィア国際映画祭 最優秀男優賞受賞(ピーター・サースガード)
- 視聴方法
- 全国劇場で公開中
この記事でわかること
- 『あの歌を憶えている』のあらすじ・基本情報
- ミシェル・フランコ監督作品の特徴と、新作での意外性
- 傷を抱えた男女が出会う物語の“ラブストーリー”と“重厚さ”の両面
- 実際に観た個人的な感想:前向きさの陰に潜むハードさ
はじめに
当ブログ『ねことシネマ』にお越しいただき、ありがとうございます。今回はミシェル・フランコ監督の新作『あの歌を憶えている』を観てきました。フランコ監督といえば、『或る終焉』『ニューオーダー』といった衝撃度の高いテーマで話題を集めてきた存在ですが、本作には意外なほど“優しさ”や“希望”が感じられる部分もあり、一見“前向きなヒューマンドラマ”という印象を受けるかもしれません。
ただし、そこはやはりフランコ監督。表面上はラブストーリーでも、登場人物が抱える過去や現実はかなり重たく、観る人によっては「結構ハードな内容かも」と思うシーンもあるように感じました。そんな両面を持つ不思議な作品として、多くの方におすすめできる一本です。

あらすじ
ニューヨークで13歳の娘と暮らすソーシャルワーカーのシルヴィアは、若年性認知症による記憶障害を抱えるソールと出会う。家族に頼まれてソールの面倒を見るようになった彼女は、彼の穏やかで優しい人柄と、抗えない運命への哀しみに触れていくうちに、次第に惹かれていく。しかしシルヴィアもまた、ある過去のせいで心に傷を抱えていた。それぞれ自分の殻に閉じこもって生きてきた2人は、互いに寄り添いながら自身の過去や人生と向き合っていく。
ミシェル・フランコ作品への期待と意外性
フランコ監督はこれまで、『或る終焉』『ニューオーダー』などで社会的な問題や人間の内面を容赦なく描き出してきたこともあり、「今回もハードなのかな…」と身構えていたのですが、本作では表面的にはかなり穏やかで“優しい”印象を与えます。カメラワークも固定気味で、自然光が差し込む柔らかなシーンが目立ち、音楽も最低限しか使われません。
しかし物語の中盤からは、主人公たちが抱える深い苦しみやトラウマが少しずつ浮かび上がり、じわりと心に重さをもたらします。いわば“優しい手ざわり”の中に“ハードなテーマ”がしっかり息づいているのも、本作の大きな特徴だといえるでしょう。
見どころ:ラブストーリーと重厚さの絶妙な両立
演技の説得力
ジェシカ・チャステイン演じるシルヴィアと、ピーター・サースガード演じるソール。二人とも過去の傷や疾患を抱え、自分の意思だけでは解決できない状況に直面しています。その複雑な感情を繊細かつリアルに表現していて圧巻。表面上の淡々とした会話や仕草の裏には、人生の重みがずしりとのしかかっているような演技が見どころです。
“忘れたい”と“忘れたくない”の対照
シルヴィアは、消し去りたいほど辛い体験を抱えている。一方で、ソールは記憶障害によって大切な思い出が失われていく恐怖に苛まれている。まったく逆の方向を向く二人が出会うことで、「なぜ寄り添えるのか」という問いがラブストーリーとしてはもちろん、人生ドラマとしても興味深いテーマになっています。
抑えた演出の力
映像面では固定カメラと自然光中心、音楽面では大半が静寂――そうした抑制された演出のおかげで、1960年代の名曲「青い影」が流れる場面は一際印象に残ります。登場人物たちの“大事な記憶”に光が当たるような感覚を得られ、淡々とした画の中にフランコ監督らしい鋭い視線が見え隠れするのも興味深いところです。
個人的な感想:ハードさを感じつつも、最後は前向き
直前まで別の作品を観ていたけれど…
実は本作を観る15分ほど前まで、同じ劇場で『愛を耕すひと』を鑑賞していました(過去記事はこちら)。さすがに2本連続は疲れるかなと思いましたが、本作の上映時間が約103分と長すぎず、テンポも比較的落ち着いていたので最後まで集中して観ることができました。
ハードだけど観やすい
- やはり重いテーマだった
一見ラブストーリーに見えますし、終盤には少し希望を感じる要素もあるので、「今回はソフトめ?」と思いがち。でも、登場人物の背景を知るほどに“実は相当ハード”な内容が詰まっていて、胸に響く苦さがあります。 - 100%ハッピーというわけではない
ラストは観る人によって「ハッピーエンド」と捉えられるかもしれませんが、全てが解決するわけではないため、「本当に大丈夫かな…」と疑問に思う要素は残ります。ただ、二人が出会ったことによって、互いの人生が“少しでも前よりは生きやすくなる”可能性を感じられたので、私は前向きに受け止めました。 - 終わってからじわじわ来る
スッと観終わった後、少し時間を置くと「結局あの場面って…」といろいろ考えが巡ってきます。誰かと「こうだったよね」と話し合いたくなる映画で、重みを噛みしめるほど余韻が深まる印象です。
まとめ
『あの歌を憶えている』は、一見すると「傷ついた男女が寄り添い合う優しいラブストーリー」にも思えますが、その底にはやはりハードなテーマが潜んでいます。トラウマや若年性認知症など、当事者にはどうしようもない苦しみに直面したとき、人はどんなふうに折り合いをつけ、どうやって希望を見いだすのか。ミシェル・フランコ監督らしく、抑えた演出の中で静かに答えを探っている印象です。
最終的には前向きにも感じられますが、決して万人ウケする“軽やか”な作品というわけではありません。それでも、この重さや苦さも含めて「大人のラブストーリーが観たい」という方には非常におすすめしたい一本。
もし興味を持たれた方は、ぜひ劇場や配信でチェックしてみてくださいね。観終わった後、あなたはこの結末をどう受け止めるでしょうか……?
当ブログ『ねことシネマ』では、これからも映画を観た感想や気づきを発信していきます。気になる作品があればぜひコメントで教えていただけると嬉しいです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
外部リンク
- IMDb『Memory』
キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。