映画『トロン:アレス』基本データ
- 原題: TRON: Ares
- 監督: ヨアヒム・ローニング
- 主要キャスト:
- ジャレッド・レト(アレス)
- グレタ・リー(イヴ・キム)
- エヴァン・ピーターズ(ジュリアン・デリンジャー)
- ジェフ・ブリッジス(ケヴィン・フリン) ほか
- 音楽: ナイン・インチ・ネイルズ(トレント・レズナー&アティカス・ロス)
- 公開年: 2025年(日本公開 2025年10月10日)
- 上映時間: 119分
- 視聴方法(2025年10月現在):
- 全国の劇場で公開中
この記事でわかること
- 『トロン:アレス』のネタバレなしの率直な感想
- 海外の批評サイトでの低い前評判は本当だったのか?
- 過去作、特に『トロン:レガシー』と本作『アレス』の決定的な違い
- 「AIの侵略」という、まさに現代的なテーマ性
- 本作を最大限楽しむために、どの作品を予習しておくべきか
はじめに
こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ! 数ある映画ブログの中から、この記事を見つけてくださって本当にありがとうございます。
今回は、2025年10月10日に日本でも公開が始まったばかりの話題作、ヨアヒム・ローニング監督の映画『トロン:アレス』について、鑑賞したての感想をお話ししたいと思います。
『トロン』シリーズといえば、1982年の革新的な1作目から、前作『トロン:レガシー』(2010年)まで、なんだかんだで追いかけてきたシリーズです。(過去記事はこちら) 久々の続編ということで、映画館で予告編を観るたびに「これは面白そうだぞ」と期待していました。
ですが、正直に告白します。 公開直前、アメリカの有名な批評サイト「ロッテントマト」のスコアが解禁されると、私が見た時点では批評家スコアが50%台と、なんとも芳しくない評価で…。 「よし、観に行くぞ!」と胸を張って言える状況ではなくなってしまい、公開日に観る予定だったのを、少し日和ってしまったんです。(同日公開の別作品を先に観てしまいました…)
ただ、公開日の金曜日から三連休ということもあり、「映画好きとして、評価が良くないから観ない、というのも違うよな」と。やはり自分の目で確かめてこそだと思い直し、急遽、劇場へ足を運んだ次第です。
そして、観終わった直後の感想は、 「全然面白かった…!」 でした。
観る前の低評価にビビっていた時間がもったいなかったと感じるくらい、私は素直にエンターテインメントとして楽しむことができました。
なぜ私が「面白い」と感じたのか、そしてなぜ一部で評価が割れているのか。 今回は、前作『レガシー』との比較も交えながら、本作『トロン:アレス』の魅力を【ネタバレなし】でじっくりと語っていきたいと思います。
あらすじ
※大きなネタバレはありませんが、基本的な設定には触れています。
これまでの『トロン』シリーズといえば、現実世界の人間(ユーザー)が、神秘的で危険なデジタル世界「グリッド」へ足を踏み入れる物語でした。
しかし、本作『トロン:アレス』は、その構図が「反転」します。
デジタル世界から、超高度なAIプログラムであるアレス(ジャレッド・レト)が、現実世界へと実体化して現れるのです。 彼らは、自らの創造主であるエンコム社のCEO、ジュリアン・デリンジャー(エヴァン・ピーターズ)によって、ある目的のために送り込まれた「究極の兵士」でした。
しかし、彼らプログラムがこの物理世界で生存できる時間は、わずか「29分間」。
プログラムの永続的な生存を可能にする「永続コード」の鍵を握るプログラマー、イヴ・キム(グレタ・リー)を追うアレス。 やがて彼は、初めて触れる現実世界の感覚(雨の匂いや、人間の感情)に戸惑い、自らの存在意義に疑問を抱き始めます。
一方、29分以上の生存を求めるAI兵士たちは、次第に制御を失い、暴走を始めてしまいます……。

作品の魅力
では、ここからは私が本作を「面白い!」と感じた理由、その魅力について、いくつかのポイントに分けてお話しさせてください。
不安を覆す、「脚本ありき」の確かな物語
私が本作に飛び込む上で、一番の不安要素となっていたのが、実は「ロッテントマトの低評価」よりも、前作『トロン:レガシー』の個人的な印象でした。
正直にお伝えすると、私は『レガシー』があまり得意ではありません…。 今回『アレス』を観る前にディズニープラスで復習しようとしたのですが、恥ずかしながら途中でリタイアしてしまったほどです。 あくまで私個人の感想ですが、『レガシー』は「映像を見せたい」という意図が先行しすぎて、物語が後からついてきているように感じられました。「なぜ今ディスクバトルが始まるの?」といった展開の唐突さが、どうしても気になってしまったのです。
しかし、本作『トロン:アレス』は、その不安を完璧に吹き飛ばしてくれました。 『レガシー』が「映像のために脚本があった」と感じたのに対し、本作は「確かな脚本のために映像がある」と強く感じられたのです。
AIが暴走し、自らの存在意義に目覚めていく…という筋書きは、それこそ『2001年宇宙の旅』のHAL9000から受け継がれる、サイエンスフィクションの「王道」とも言えます。ですが、本作はその王道の土台をしっかりと構築した上で、現代の技術でしか成し得ない圧倒的な映像表現を乗せています。
「確かな脚本のために映像がある」――この当たり前だが見失われがちな構造こそが、私たちが安心して物語に没入できる最大の理由です。
シリーズの「反転」がもたらす現代的テーマ
本作の最も重要な功績は、あらすじでも触れた「物語の反転」にあると私は感じています。
1作目や『レガシー』では、人間はデジタル世界において「ユーザー」であり、神のような絶対的な存在でした。 しかし本作では、その力関係が逆転します。人間は、自らが創造したAIプログラムによって侵略される、か弱い「原住民」となってしまったのです。
この構図の転換は、単なる筋書きの捻り以上に、深い意味を持っています。
それは、私たちが日常的に触れる「生成AI」に対して抱く、あの漠然とした不安――「いつかデジタルが現実を乗っ取るのでは?」という恐怖に、真正面から向き合った作品だからです。
『トロン』が描いてきたデジタル世界は、かつては遠い未来の抽象的なフロンティアでした。 しかし『アレス』が描くのは、もはや現実世界に「漏出」し始めた、すぐそこにある脅威です。 この時代性こそが、本作の物語に強い説得力を与えているのだと感じました。

感覚に訴える視聴覚の「侵略」
しっかりとした脚本の土台があるからこそ、本作の「アトラクション・ムービー」としての側面が最大限に輝いています。
何と言っても、予告編でもおなじみの「ライトサイクル」が現実世界に出現するシーンは圧巻です! ネオンの光の軌跡を残しながら、物理法則に従ってビル街を疾走し、時にはアスファルトを削りながら火花を散らす。この「デジタルな存在」と「物理的な現実」が衝突するビジュアルは、本作でしか味わえない格好良さと面白さに満ちあふれています。
私は今回、急遽観に行ったため通常のスクリーンで鑑賞しましたが、「これはIMAXが映える映画だろうな…!」と強く感じました。 もしお近くにIMAX劇場がある方は、ぜひそちらでの鑑賞をおすすめします。あの没入感は、大きなスクリーンでこそ真価を発揮するはずです。
また、本作のキーカラーが、伝統的な「青」ではなく、攻撃的な「赤と黒」である点も印象的でした。この色彩が、まさに現実世界への「侵略」や「ウイルス的」な危険性を視覚的に訴えかけてくるようでした。
ダフト・パンクからの継承と「決別」:NINのインダストリアルな鼓動
私個人は『レガシー』の物語があまり得意ではないのですが、それでも、あの作品が今も多くのファンに強く支持され、そのアイデンティティを決定づけた最大の理由。それは間違いなく、ダフト・パンクによる音楽でしょう。 あの荘厳で、どこかメランコリックなシンセサイザーの音色は、『レガシー』の洗練されたネオン・ノワールの世界観そのものでした。
では、本作『アレス』は? ディズニーと制作陣が、あのダフト・パンクの後任として白羽の矢を立てたのは、なんとナイン・インチ・ネイルズ(トレント・レズナーとアティカス・ロス)でした。
この選択が、本作の方向性をすべて物語っていると私は思います。 ダフト・パンクの音楽が、美しくも冷たい「デジタルの大聖堂」を鳴り響くパイプオルガンのようだったとすれば、ナイン・インチ・ネイルズの音楽は、現実世界と衝突し、軋轢を起こす「インダストリアルな心臓の鼓動」そのものです。
不協和音や、歪んだギターノイズ、無機質でパーカッシブなビート。 それらは決して「心地よい」音楽ではありませんが、アレスの混沌とした内面や、プログラムが現実を侵食していく様を、言葉以上に雄弁に物語っています。 本作は、対話や脚本だけでなく、この「光と音の交響曲」によって物語を体感させる、「感覚的ストーリーテリング」の極地にある作品だと感じました。
「人間性」を学ぶAI:ジャレッド・レトの静かなる熱演
「AIが人間性を学ぶ」というテーマは、確かに使い古された王道かもしれません。 ですが、本作の主人公アレスを演じたジャレッド・レトの演技は、その王道の物語に確かな説得力を与えていました。
彼は、AI兵器としての完璧な無機質さから、次第に感情(あるいは彼らの言う「バグ」)に目覚めていく様を、非常に繊細に表現しています。 大げさな表情の変化ではなく、ほんのわずかな姿勢の変化、声の抑揚、そして「瞬き」の導入といった最小限の演技で、アレスの内面で起こっている宇宙的な変化を伝えてくれました。
彼が初めて「雨」に触れた時の戸惑い。 グレタ・リー演じるイヴ・キムとの交流を通じて芽生える、論理では説明できない何か。 このアレスの「人間性」への旅こそが、本作の感情的な核であり、私たちがこの物語に共感できる最大の理由だったと思います。

まとめ
海外での前評判や、前作『レガシー』への個人的な苦手意識から、少しばかり不安を抱えて鑑賞した映画『トロン:アレス』。 しかし、その不安は良い意味で裏切られ、私は「王道のSFエンターテインメント」として、心の底から楽しむことができました。
もちろん、過去作の難解さや哲学的な深みを期待すると、少し物足りなく感じる方もいらっしゃるかもしれません。 ですが、本作は『トロン』というカルト的な人気を誇るフランチャイズを、現代の観客に向けた「アトラクション・ムービー」として、見事に再構築した作品だと感じます。
最後に、これからご覧になる方へ、一つだけアドバイスを。
個人的な意見ですが、前作『トロン:レガシー』は、観ていなくても問題なく楽しめます。 (もちろん、観ていればグッとくる要素はあります!)
それよりも、もしお時間があれば、ぜひ1982年の1作目『トロン』を予習しておくことを強くおすすめします。
1作目は、今見ると映像こそレトロですが、その設定の斬新さ、そして「エンコム社」や「デリンジャー」といった固有名詞、このシリーズ独自の世界観の根幹がすべて詰まっています。 映画史的にも非常に重要な作品ですので、ぜひこの機会にご覧になった上で『トロン:アレス』を観ると、物語の背景をより深く理解できるはずです。
1作目『トロン』や『トロン:レガシー』は、ディズニープラスなどで配信されています。
週末はぜひ、IMAXシアターで、ナイン・インチ・ネイルズの轟音と共に「AIの侵略」を体感してみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。 皆さんは『トロン』シリーズ、どの作品が一番お好きですか? もしよろしければ、コメント欄であなたのご感想も教えていただけると嬉しいです!
それでは、また次回の『ねことシネマ』でお会いしましょう。
- IMDb『トロン:アレス』
キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。