映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』基本データ
- 原題: One Battle After Another
- 日本公開日: 2025年10月3日
- 監督: ポール・トーマス・アンダーソン
- 主要キャスト:
- レオナルド・ディカプリオ(ボブ・ファーガソン)
- ショーン・ペン(スティーブン・J・ロックジョー)
- ベニチオ・デル・トロ(センセイ)
- レジーナ・ホール(デアンドラ)
- テヤナ・テイラー(ペルフィディア)
- ウィラ(チェイス・インフィニティ) ほか
- 上映時間: 162分
- 視聴方法:
- 全国の映画館(IMAX上映推奨)
この記事でわかること
- PTA監督最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』がなぜ「傑作」と絶賛されるのか
- 主演レオナルド・ディカプリオの演技の見どころ
- 社会派エンターテイメントとしての本作のすごさ
- 映画史に残る圧巻のカーチェイスシーンの魅力
- なぜこの映画は「IMAX」で鑑賞すべきなのか、その理由
はじめに
こんにちは。当ブログ「ねことシネマ」へようこそ。
映画好きであれば、ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)監督の新作は見逃せない――。それはもはや、多くの方にとっての共通認識ではないでしょうか。2025年10月3日に公開された記念すべき10作目、『ワン・バトル・アフター・アナザー』。予告編の時点から「これは面白い」と確信させるに十分な熱量を放っていました。
次々と映画史に残る名作を生み出してきた天才が、初めて本格的なアクション大作に挑む。しかも主演は、あのレオナルド・ディカプリオ。これだけの情報が揃っていて、観ないという選択肢は私にはありませんでした。
公開翌日の10月4日、期待に胸を膨らませてIMAXシアターへ。とはいえ、公開直前の批評家スコアが軒並み高評価だったこともあり、自分の中で上がりすぎた期待値に「もし、ハマらなかったらどうしよう…」という一抹の不安があったのも事実です。
ですが、エンドロールが流れ終わる頃には、そんな不安はスクリーンの中にすっかり消えていました。
率直な感想は、一言で「最高」。映画を観た後、ここまで心が満たされて「今すぐ誰かとこの気持ちを分かち合いたい!」と思ったのは、本当に久しぶりです。
今回は、私にとって2025年下半期の暫定No.1となった傑作『ワン・バトル・アフター・アナザー』の魅力について、この興奮を少しでも共有できたら嬉しいです。

あらすじ
※以下、物語の核心に触れるネタバレは避けていますが、作品の雰囲気を知るための情報が含まれます。
かつては世間を騒がせた伝説的な革命家だった、ボブ・ファーガソン。しかし、今はその面影もなく、パラノイアに苛まれながら平凡でさえない日々を過ごしています。そんな彼にとって、たった一つの大切な存在が一人娘のウィラでした。
ある日、ボブの過去が原因で、ウィラの命が何者かに狙われることになります。娘を守るため、ボブは再び闘争の世界へ。次々と現れる刺客たちとの戦いに身を投じていきます。
しかし、父娘の前には無慈悲な軍人ロックジョーが立ちはだかります。ロックジョーは異常なまでの執着心でウィラを追い詰め、父娘は絶体絶命の窮地に立たされてしまうのでした。
作品の魅力
本作の魅力は何かと問われれば、正直「すべてが素晴らしい」としか言いようがないのですが、それではレビューになりませんね。特に私の心に深く刻まれたポイントを、いくつかご紹介したいと思います。
PTA史上、最もエンタメに振り切った傑作
PTA監督の作品といえば、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』や『ファントム・スレッド』のように、重層的で優れた人間ドラマを描く一方で、その芸術性の高さから、必ずしも万人受けするとは言えない側面も持っていました。
しかし、本作は違います。「アクション映画」という明確なジャンルの面白さを正面から描き切っており、PTA作品の中で最もエンターテイメントに振り切った、誰もが「面白い!」と感じられる作品に仕上がっていると感じました。162分という長尺にもかかわらず、全く長さを感じさせません。これはもう、緻密に練り上げられた脚本と、観客を一切飽きさせない編集のテンポ感、その見事なコンビネーションの勝利ですね。
本作について少し調べてみると、監督自身がキャリアの初期から温めていた「砂漠でのカーチェイス映画」の構想を、原作小説(トマス・ピンチョン作『ヴァインランド』)と融合させたという背景があるようです。(参考)原作の持つ複雑なテーマ性を損なうことなく、PTA監督はアクションというジャンルの言語を完全に習得し、それを自らの作家性へと昇華させています。「アートハウスの監督」が、大衆的なブロックバスターの娯楽性を手にした時、これほどまでにパワフルな映画が生まれるのかと、ただただ驚かされました。
ディカプリオの怪演が光る、人間臭いキャラクターたち
本作の脚本の巧みさは、キャラクター造形にも色濃く表れています。主人公のボブは、冒頭の革命家時代のシーンで、すでに伝説の人物でありながらも、どこか小物感が漂うような、完璧ではない人間臭さをさらけ出します。
この「完璧ではないヒーロー」像は、主演のレオナルド・ディカプリオのまさに「怪演」と呼ぶべき演技によって、見事に体現されていました。『ジャンゴ 繋がれざる者』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などで見せたような、少しイカれた、単なる格好良さだけではない彼の魅力が、本作では全編にわたって炸裂しています。

そして私が特に心を打たれたのは、その人物像の深みです。彼は、かつて燃やした革命の炎を、いまは「父性的な不安」という全く別の形のエネルギーに変えてしまった男のように見えました。彼の行動を突き動かすのは、もはや大義やイデオロギーではありません。ただひたすらに「娘を守る」という、極めて個人的で純粋な愛情です。
壮大な政治闘争よりも、一人の子供を必死に育てることこそが、最もラディカルな行為なのだ――。本作の根底には、そんな力強いテーマが流れているように感じられてなりませんでした。そうした視点で改めて彼の姿を追うと、ディカプリオが体現したボブのパラノイアや愛情の深さが、より一層胸に迫ってくるのです。
もしかすると、物語が本格的に動き出すまでは、人によってはスローペースに感じられるかもしれません。しかし、それはここまで描いてきた一人ひとりのキャラクターの背景や心情を丁寧に掘り下げ、観客が彼らに深く感情移入するための、非常に重要な時間なのだと私は思います。
社会性とエンターテイメントの奇跡的な融合
この映画の本当にすごい点は、一級のアクション・スリラーでありながら、その物語の根底に、現代社会への鋭い視点が含まれていることです。 ボブが対峙する敵役は、反移民主義を掲げる過激な集団であり、これは現在の米国が実際に抱える問題を色濃く反映しています。
しかし、そのメッセージは決して説教くさくなく、声高に何かを主張するわけでもありません。あくまでアクションというエンターテイメントの構成要素として、観客を楽しませるスパイスとして、巧みに組み込まれているのです。
本作の社会批評で特筆すべきは、その多層的な構造です。作中に登場する極左と極右の過激派組織は、どちらも風刺の対象として描かれています。この映画が本当に鋭いのは、真の悪役をどちらか一方の思想だと決めつけず、ファシズムという強力な道具を手にした「軍隊化した国家そのもの」へと、その矛先を向けている点だと思うんです。

そのテーマは、主人公たちを追い詰めるロックジョー大佐のような人物が示す、日常に潜む官僚的な残酷さにはっきりと表れています。アンダーソン監督は、白人至上主義をどこか間抜けな秘密結社のように描くことで、最も危険な悪意とは、我々の日常に溶け込んだ陳腐な姿で現れるのだと、痛烈に示唆しているのです。社会の深部に鋭く切り込みながら、それを娯楽作として見事に昇華させる。その絶妙なバランス感覚には、ただただ脱帽するばかりでした。
魂を揺さぶる映像美と神経をすり減らす音楽
私が初めて映画の「ルック」、つまり映像そのものが持つ美しさや格好良さを意識したのが、PTA監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の冒頭シーンでした。それまではストーリーの面白さばかりを追い求めていた私にとって、あの体験は衝撃的でした。
本作もまた、フィルムで撮影されたことが伝わってくるような、ざらっとした粒子感が美しい、映画ならではのルックが冒頭から全開です。そして、その映像を完璧なまでに引き立てるのが、ジョニー・グリーンウッドによる音楽です。
伝統的なスコアというよりは、まるで警報のように鳴り響き、神経をじりじりとすり減らすような緊張感のある劇伴。それが観客の心理を巧みに煽り、見事に映像と一体化していました。この映像と音楽の相乗効果によって、観客は162分間、息をすることすら忘れてスクリーンに引き込まれてしまうんです。
語り継がれるであろう、圧巻のラストカーチェイス
そして、何と言っても本作のクライマックス。三つ巴で繰り広げられるカーチェイスは、絶対に語らずにはいられません。
何度も丘を上り下りする起伏の激しい丘陵地帯を舞台にしているのですが、その地理的特性が見事に活かされています。丘の頂上を越える瞬間、一瞬だけ追手や逃走車が見えなくなる「死角」が生まれる。この地形を利用したサスペンス演出は、まさにヒッチコック的と言えるでしょう。脚本、ロケーション、編集技術、そのすべてが完璧に噛み合った、まさに「映画史に残る」と断言したい、とんでもない名シーンがここに誕生していました。
この映画こそ「IMAX」で観るべき理由
最後に、私が声を大にしてお伝えしたいこと。それは、『ワン・バトル・アフター・アナザー』は、絶対にIMAXで観るべき映画だということです。
本作はPTA監督にとって、キャリア初のIMAX作品。しかも、クリストファー・ノーラン監督作品のように、IMAXフィルムカメラで撮影されたシーンでは、スクリーンが上下いっぱいに広がる1.43:1という特別なアスペクト比で上映されます。監督が意図した映像のすべてを完全に体験するには、IMAXスクリーンでの鑑賞が不可欠なのです。
通常、IMAXの壮大なフォーマットは、非政治的なブロックバスター大作のために使われることが多いかもしれません。しかし本作では、その最も没入感のある映像体験を用いて、観客をザラザラとした恐ろしい政治的現実の只中へと突き落とします。記念碑的なスケールで「パラノイアと恐怖」に直面させられる、唯一無二の体験がそこにはありました。
アクション映画というエンタメ性の高いフォーマットでありながら、見終わった後には、まるでアカデミー賞作品賞に絡むような、芸術性の高い作品を観たような感覚に包まれるはずです。このギャップこそが本作の最大の面白さであり、ポール・トーマス・アンダーソンという監督のすごさなのだと、改めて実感しました。
まとめ
『ワン・バトル・アフター・アナザー』は、ポール・トーマス・アンダーソンという監督の新たな境地を示す、まさに傑作でした。
普段あまり映画を観ない方や、これまでPTA作品に触れたことがないという方にとっても、最高にエキサイティングな入門編となるでしょう。そしてもちろん、長年の映画ファンであれば、誰もが熱狂し、語りたくなるはずです。
社会の歪みを描きながらも、最後には父と娘の愛という普遍的なテーマに帰着するこの物語は、きっと多くの人の心に響くと思います。
この傑作を、ぜひ劇場で、できればIMAXの大スクリーンで体験してください。きっと、忘れられない映画体験があなたを待っています。
週末は、この映画で濃密な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。きっと新たな発見があるはずです。 あなたはこの映画のどんなところが好きですか?ぜひコメントで教えてください!
- IMDb『ワン・バトル・アフター・アナザー』
キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。