映画『バード ここから羽ばたく』基本データ
- 原題: Bird
- 監督: アンドレア・アーノルド
- 主要キャスト:
- ニキヤ・アダムズ(ベイリー)
- バリー・コーガン(バグ)
- フランツ・ロゴフスキ(バード) ほか
- 公開日: 2025年9月5日(日本)
- 上映時間: 119分
- 視聴方法(2025年9月現在):
- 全国の劇場で公開中
この記事でわかること
- 映画『バード ここから羽ばたく』のあらすじと基本情報(ネタバレなし)
- 本作が「賛否両論」と言われる理由と、個人的な鑑賞後の素直な感想
- アンドレア・アーノルド監督ならではの作風と、リアルとファンタジーが融合した独特の世界観
- 物語の鍵を握る象徴的なモチーフ(動物など)についての考察
- なぜこの映画が「変な映画」なのに、不思議と幸せな後味を残すのか
はじめに
こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。 今回は、2025年9月5日に日本でも劇場公開が始まったアンドレア・アーノルド監督の最新作『バード ここから羽ばたく』をご紹介します。
私自身、公開初日に鑑賞してきたのですが、実は少し迷いがありました。今週は観たい映画が多く、仕事終わりに間に合うかどうかのタイトなスケジュールだったのです。しかし、海外の映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」での評判が非常に高く、これは見逃せない…!と、なんとか仕事を切り上げて劇場に駆けつけました。
観終わって最初に口から出たのは、「すごく幸せな映画。でも…これは間違いなく賛否が分かれるな」という独り言でした。物語がどこへ向かうのか全く予測がつかず、ただ翻弄される不思議な時間。それでも最後には、じんわりと心に温かいものが残るんです。
今回は、そんな一筋縄ではいかない本作の魅力を、【ネタバレなし】でじっくりと語っていきたいと思います。この映画がなぜこれほど批評家たちの間で話題となり、そして観る者の心を掴む(あるいは、ざわつかせる)のか。その理由を探る旅に、少しだけお付き合いいただけたら嬉しいです。
あらすじ
イギリス郊外の下町。12歳の少女ベイリーは、どこか子供っぽさが抜けないシングルファザーのバグ、そして腹違いの兄と共に、混沌とした日々を送っていました。
やり場のない孤独と現実への苛立ちを募らせていたある日、ベイリーは広大な草原で、服装も言動も風変わりな謎の男「バード」と出会います。彼のぎこちない振る舞いの奥に、どこかピュアな何かを感じ取ったベイリー。
「両親を探している」というバードを手伝うことになった彼女の日常は、この不思議な出会いをきっかけに、少しずつ変化していくのですが――。

作品の魅力
救いのない現実と、どこへ向かうか分からない物語
物語の序盤、スクリーンに映し出されるのは、かなり厳しい現実です。主人公のベイリーが暮らすのは、ゴミが散らかった集合住宅。彼女を取り巻く大人たちは、何かしらの問題を抱えています。
特に父親のバグ(演:バリー・コーガン)は、父親というよりは「お兄ちゃん」といった雰囲気で、娘に何の相談もなく突然「再婚する」と宣言してしまうような人物。ベイリーには腹違いの兄妹もおり、その母親もまた別の問題を抱えているなど、家族関係は複雑です。
正直なところ、鑑賞しながら「これほど手に余る状況から、どうやってハッピーエンドに持っていくのだろう」と、少し途方に暮れてしまいました。多くの映画は、序盤で提示された問題を解決して大団円を迎える、という大まかな予測がつきます。しかし本作は、物語がどこへ向かっているのか、どうすれば彼女たちが幸せになれるのかが全く読めないのです。
気になって過去作を調べてみたら、やはりアンドレア・アーノルド監督は、これまでも社会の片隅で生きる人々へ、容赦ないほどリアルな、しかし温かい眼差しを向けてきた方でした。
物語をかき乱す謎の男「バード」
ただでさえ物語の行き先が見えない中、さらに観客を混乱させるのが、フランツ・ロゴフスキ演じる謎の男「バード」の存在です。
ベイリーが出会う彼は、スカートのようなものを履き、言動もどこか浮世離れしています。貧困や機能不全家族といった極めて現実的なテーマを描くこの物語に、あまりにも唐突に現れるファンタジー的なキャラクター。彼の登場で、観ているこちらの頭は「???」です。「え、この映画って社会派ドラマじゃなかったの?ファンタジー?」と混乱し、物語のゴールテープはますます見えなくなっていきます。
しかし不思議なことに、バードが登場しても物語が一変し、急に明るくなるわけではありません。彼もまた「父親を探している」という悩みを抱えた一人の人間として描かれ、ファンタジーの住人かと思いきや、結局は「闇を抱える人物が一人追加されただけ」という状況が続くのです。
本作の核となっているのは、この対比的な二人の男性像です。バリー・コーガン演じる父親バグが、どうしようもなく未熟だけれど愛情深い「地に足のついた現実」の象徴だとすれば、フランツ・ロゴフスキ演じるバードはまさに「ファンタジー」や「飛翔への可能性」を体現する存在。この対照的な二人の間で、ベイリーの世界がどう変わっていくのかが、物語の大きな見どころとなっています。


賛否両論の核心:リアルと魔法の「すごみ」
この映画が単なる「いい話」で終わらないのは、終盤のあるシーンが大きな賭けに出ているからだと感じます。これこそが、本作に凡作では終わらない「すごみ」を与え、同時に賛否を分ける最大の要因だと思います。
海外の批評などを調べてみると、「野心的で感動的だ」という絶賛の声がある一方で、「二つの要素がうまくかみ合っていない」といった、より慎重な意見も見られます。
ネタバレは避けますが、正直に告白すると、私はこの展開に「やられた!」と心を鷲掴みにされました。これぞ映画の魔法。安易なご都合主義に逃げず、「映画にしかできない飛躍」で現実を乗り越えようとする力強い意志に、ただただ感動してしまったのです。気になる方はぜひ劇場で、ご自身の目で確かめてみてください。
散りばめられた象徴たち:動物とタトゥーに込められた意味
物語を注意深く見ていると、様々な要素が象徴的な意味を持っていることに気づきます。
例えば、ベイリーの腹違いの兄が友人たちと行う、自警団のような遊び。これも当初は社会の不安定さを描くための一要素かと思いきや、後半の展開に綺麗に繋がっていきます。
そして、この映画で最も重要なのが「動物」の存在です。
ベイリーとバードが出会う草原に馬がいたり、カラスが意味(役割)を持って登場したり。動物たちは、とても単なる背景として配置されているとは思えない、確かな存在感を放っているのです。タイトルが『バード』であり、バードという名の男が登場する以上、「動物」が物語の鍵を握っていることは想像に難くないでしょう。
監督自身の人生における動物という存在への眼差しが、この映画の核にあるように感じました。人間の世界の不条理さや腐った繋がりといった汚れた部分と対比するように、動物たちの純粋な世界が描かれているのです。ちなみに、バリー・コーガンが演じる父親のタトゥーが、よく見ると虫や生物である点も、何か意味があるのかもしれません。
まとめ
私にとって、本作が初めてのアンドレア・アーノルド監督作品でした。過去作の『フィッシュ・タンク』や『アメリカン・ハニー』なども調べてみると、やはり「動物」や「社会の周縁で生きる若者」が一貫したテーマになっているようで、他の作品も観てみたくなりました。
もし誰かに「『バード ここから羽ばたく』ってどんな映画?」と聞かれたら、私はきっとこう答えます。「すごく明るい気持ちになれる。でも、とんでもなく“変”な映画だよ」と。
見終わった後は不思議と幸せな気分になれたのですが、同時にどこか腑に落ちない複雑な感覚も残りました。完璧なハッピーエンドだったのかと問われると、即答するのが難しい。そんな、ひと言では語り尽くせない魅力を持っています。
この映画は、厳しい現実を生き抜くためには、時にファンタジーのような「想像力の飛躍」が必要なのかもしれない、と私たちに語りかけてくるようです。
もしあなたが、予定調和の物語に少し飽きているなら。この予測不能で不思議な鑑賞体験を、ぜひ劇場で味わってみてください。見終わった後、きっと誰かとこの“変”で温かい気持ちを語り合いたくなるはずですから。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。 あなたはこの映画のどんなところに惹かれましたか?もしよろしければ、ぜひコメントで感想を教えてください!
- IMDb『バード ここから羽ばたく』
キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。