映画『女と男の観覧車』基本データ
- 原題: Wonder Wheel
- 監督・脚本: ウディ・アレン
- 主要キャスト:
- ケイト・ウィンスレット(ジニー)
- ジャスティン・ティンバーレイク(ミッキー)
- ジム・ベルーシ(ハンプティ)
- ジュノー・テンプル(キャロライナ) ほか
- 公開年: 2017年(アメリカ)、2018年(日本)
- 上映時間: 101分
- 視聴方法(2025年7月現在):
- Amazonプライムビデオ など各種動画配信サービス配信中
- DVD・Blu-ray 発売中
この記事でわかること
- 筆者がディズニーランドの「ペニーアーケード」をきっかけにこの映画に辿り着いた意外な経緯
- ウディ・アレン作品特有の「らしさ」(第四の壁、早口、長回し)についての個人的な感想
- 息をのむほど美しい、コニーアイランドの色彩豊かな映像美の魅力
- なぜこの映画が「技術的には見事だが、物語は空虚」と評されることがあるのか、その理由についての考察
はじめに
こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。 今回は、2017年に制作され、日本では2018年に公開されたウディ・アレン監督の映画『女と男の観覧車』について語りたいと思います。
この作品を観るに至ったきっかけは、実は少し意外なところにありました。当ブログでも時々触れていますが、私はそこそこのディズニー好きです。先日も、東京ディズニーランドのフードやカクテルを楽しむためだけに、一人でふらりと訪れました。
その際、ワールドバザールにある「ペニーアーケード」というレトロなゲームセンターに立ち寄ったんです。ここは、かつてアメリカに実在した遊園地「コニーアイランド」を背景に持つ場所で、壁には当時の様子を写した白黒写真が飾られています。こうした背景を調べていくのもディズニーリゾートの楽しみ方の一つだと、改めて感じ入りました。


ちなみに、東京ディズニーシーの「トイ・ストーリー・マニア!」がある「トイビル・トロリーパーク」も、同じくコニーアイランドにあった「ルナパーク」がモデルなんですよ。
さて、そんな経緯でコニーアイランドに興味を持ったディズニー好き、そして映画好きとして、「コニーアイランドが舞台の映画はないだろうか?」と思い立ったわけです。記憶に新しいところでは『アノーラ』にも印象的に登場していますが、もっとないかと探す中で、この『女と男の観覧車』に行き着きました。
正直なところ、観終わった直後の感想は「ああ、これぞウディ・アレンだ」でした。でもこの一言には、ファンならではの嬉しさと、ほんの少しの「物足りなさ」がごちゃ混ぜになって詰まっているんです。
この記事では、作品の深い分析というよりは、私が感じた「ウディ・アレンらしさ」や、鑑賞のきっかけとなったコニーアイランドの素晴らしい映像美、そしてこの映画が抱える魅力と課題について、少し掘り下げてみたいと思います。
あらすじ
※大きなネタバレはありませんが、物語の基本設定に触れています。
1950年代、ニューヨークのコニーアイランド。遊園地内のレストランでウェイトレスとして働く元女優のジニーは、回転木馬の操縦係である夫のハンプティと、自身の連れ子である息子のリッチーと3人で、観覧車のネオンが差し込む安いアパートで暮らしていました。
再婚同士の夫との平凡で退屈な毎日に失望していたジニー。彼女の心の慰めは、海岸で監視員のアルバイトをしながら劇作家を目指す青年ミッキーとの秘密の情事でした。ミッキーとの未来に淡い夢を見ていたジニーでしたが、ある日、ギャングと駆け落ちして音信不通になっていたハンプティの娘キャロライナが突然現れたことで、彼女の運命の歯車は大きく、そして残酷に狂い出していきます。
作品の魅力
これぞウディ・アレン節!心地よい「いつもの」演出
ウディ・アレン監督の作品には、個人的に「当たり」と感じるものと、そうでないものがあるように感じています。ちなみに私のベスト・アレン作品は、ベタですけどやっぱり『アニー・ホール』。あの会話のセンス、今観ても最高ですよね。皆さんのイチオシは何ですか?
そして本作『女と男の観覧車』にも、ファンなら思わずニヤリとしてしまう「ウディ・アレンらしさ」が満載でした。
まず冒頭、ミッキーを演じるジャスティン・ティンバーレイクが、カメラ目線で観客に語りかけるシーンから始まります。これぞ「ウディ・アレン劇場」の開幕!という感じで、物語の世界に引き込まれると同時に、ある種の様式美に安心感を覚えました。
登場人物が感情的に、そして早口でまくし立てるのも特徴的です。今回は特にケイト・ウィンスレット演じるジニーがその役割を担っており、彼女が自身の不満や不安を吐露する姿は、まさにアレン映画のヒロインそのものです。
また、演劇の舞台を観ているかのような長回し撮影も多用されています。これはケイト・ウィンスレットをはじめとする役者陣の確かな演技力があってこそ成り立つ演出で、彼らの息の詰まるようなセリフの応酬は、観客をぐいぐいと物語に引き込む力がありました。
息をのむ映像美――本作の真の主役は「光と色彩」か
鑑賞のきっかけとなったコニーアイランドの描写は、期待を遥かに超える素晴らしさでした。特に、伝説的な撮影監督ヴィットリオ・ストラーロが作り上げた映像は、まさに芸術品です。
オープニングのビーチの光景からして、その色彩感覚は他の映画とは一線を画します。ビビッドでありながら、どこかウェス・アンダーソン作品を彷彿とさせるような、計算され尽くした色の配置。この視覚的な楽しさだけでも、「かつてのコニーアイランドってどんな場所だったんだろう?」という私の興味を十二分に満たしてくれました。

さらに本作について少し調べてみると、この美しい色彩設計には、ストラーロ監督の明確な意図が込められているようです。それは、登場人物の心理状態を「光と色」で表現するという、色光心理学に基づいたアプローチでした。
- ジニーの世界(オレンジ/赤): 主人公ジニーが登場するシーンでは、室内に夕日のような暖色系の光が満ちています。これは情熱、感情の不安定さ、そして過去への執着を象徴しているそうです。
- キャロライナの世界(青/空色): 一方、若く未来を感じさせる義理の娘キャロライナの周りには、澄んだ寒色系の光が使われます。これは知性や冷静さ、未来を象徴しているとのこと。
二人の女性の感情がぶつかり合う場面では、文字通りオレンジと青の光がフレーム内でせめぎ合い、彼女たちの心理的な対立を視覚的に描き出します。この圧倒的に美しく、そして感情的な映像は、時に物語そのものを凌駕するほどの力を持っていました。
美しすぎる映像が浮き彫りにする、登場人物たちの「出口のない」悲劇
…と、ここまで映像の魅力を熱弁してきましたが、この映画のレビューでよく目にする「映像は素晴らしい、でも物語は…」という感想、私も痛いほどよく分かります。その原因は、完璧すぎる映像美と物語の間に生まれる、独特の「ちぐはぐさ」にあるのではないでしょうか。
ミッキーのナレーションで「メロドラマ仕立てになるから覚悟して」と前置きされるように、本作は意図的に大げさで、演劇的な世界観を構築しています。しかし、その手法が「これは作り話ですよ」という言い訳のように感じられ、登場人物たちの苦悩に深く感情移入することを妨げている、という厳しい見方もあるようです。
光と色彩は登場人物たちの内面以上に雄弁に感情を語るのに、彼ら自身の言葉や行動はどこか表層的に感じられてしまう。観客は、息をのむほど美しい景色の中で、登場人物たちが同じ場所をぐるぐると回り続ける様を見せられているような感覚に陥ります。
それはまるで、タイトルにもなっている巨大な観覧車「ワンダー・ホイール」そのものです。 きらびやかで美しく、動き続けているように見えるけれど、決してどこか新しい場所へたどり着くことはない。この「どこにも行けない」という停滞感こそが、本作の本当のテーマであり、登場人物たちが抱える、そしてもしかしたら作り手自身が抱えているかもしれない、究極の悲劇なのかもしれません。

まとめ
今回は、「いつものウディ・アレン作品」という視点で、『女と男の観覧車』をご紹介しました。 圧倒的な映像美と確かな演技、そしてアレン節とも言える演出は、紛れもなく一級品です。しかしその一方で、物語がもたらす感情的なカタルシスは乏しく、観終えた後には美しさと共に、ある種の空虚さや物悲しさが心に残りました。
このきらびやかな地獄巡りは、まさに「体験するよりも分析する方が興味深い映画」かもしれません。ただ、コニーアイランドという時代の熱気を、これほどまでに美しく追体験させてくれる作品も稀有だと思います。
そして、今回ディズニーランドを訪れたことをきっかけにこの映画にたどり着いたように、ディズニーリゾートには、掘り下げると面白い背景を持つ施設やアトラクションがたくさんあります。今後は、そうした場所の背景(バックグラウンドストーリ―)を紹介し、そこから関連する映画へと繋げていくような企画もやってみたいと考えています。ディズニーをきっかけに映画に興味を持ったり、その逆が生まれたり、双方の世界への扉を開く一助となれたら嬉しいです。
週末に、少しビターな大人の物語に浸ってみてはいかがでしょうか。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。あなたはこの映画のどんなところに惹かれましたか?ぜひコメントで教えてください!
- IMDb『女と男の観覧車』
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