映画『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』基本データ
- タイトル:『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』(原題:Joika)
- 公開年:2024年(ポーランド)、2025年(日本)
- 監督:ジェームス・ネイピア・ロバートソン
- 主なキャスト:
- タリア・ライダー(ジョイ)
- ダイアン・クルーガー(ヴォルコワ)
- オレグ・イヴェンコ(ニコライ) ほか
- 上映時間:111分
- 主な評価:
- Rotten Tomatoesの観客スコアで高得点(94%)を記録
- 視聴方法:
- 全国の劇場にて公開中
この記事でわかること
- 実在のバレリーナ、ジョイ・ウーマックの半生を基にした物語
- タリア・ライダーとダイアン・クルーガーの演技、過酷なバレエ環境の描写
- 夢と狂気、自己犠牲の美と危うさ
- 手持ちカメラや音響効果が生み出す“痛みのリアル”、教師ヴォルコワの深みあるキャラクター
はじめに
こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。今回は、2025年4月25日に日本公開されたばかりの映画『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』をご紹介します。実話に基づくバレエ映画というと、華やかなステージを連想しがちですが、本作はサイコサスペンスを思わせる“狂気”が随所に描かれ、高い評価を得ているのが特徴です。
じつは当初、私自身は別の映画「異端者の家」を観る予定でした。ところがそちらは仕事帰りにひょんなタイミングで鑑賞できたため、空いた本日に「評判がすこぶるいいらしい」と噂の『JOIKA』を急きょ観ることに。Rotten Tomatoesの観客スコアも高かったので期待していたのですが、想像を遥かに上回る衝撃を受けました。
華やかなバレエの世界に潜む過酷な現実と、追い求める目標が大きいからこそ生まれる狂気。あくまでも実在の出来事をベースにしているからこそ、その“痛み”がいっそう生々しく迫ってきます。この記事では、批評的な視点と私個人の感想を織り交ぜながら、『JOIKA』の魅力をライトにお伝えしていきたいと思います。
あらすじ
本作は、アメリカ出身のバレリーナ、ジョイ・ウーマックをモデルにした物語です。ジョイは15歳という若さでロシアの名門・ボリショイ・バレエ学校に留学し、後にボリショイ・バレエ団とソリスト契約を結んだ実力者。映画では、そんな彼女が学生時代からプロになるまでに経験する苦闘と成功が描かれます。
名も知れぬ少女が、ロシア語もままならぬまま厳格なボリショイの門を叩いたとき、待ち受けていたのは想像を絶するエリート主義や過酷なレッスンでした。教師ヴォルコワ(ダイアン・クルーガー)が率いるクラスでは、芸術の美しさの陰で罵詈雑言が飛び交い、同級生からは「よそ者」と扱われてしまいます。
それでもジョイは、「完璧なプリマになる」という夢のためなら、どんな犠牲もいとわないというほどの執念を燃やし始めます。心身が限界に近づいてもなお突き進む姿には、狂気のような凄みが漂い、見ているほうも息苦しくなるほどの緊張感が張りつめていくのです。物語を彩るのはホラー的な演出ではなく、あくまで実話由来のリアリティ。そこが『JOIKA』における最大の衝撃ポイントといえるでしょう。

作品の魅力
タリア・ライダーが体現する“狂気”の表情
主人公ジョイを演じるタリア・ライダーは、かつて「17歳の瞳に映る世界」で高い評価を得た若手女優。今回の役柄でも、繊細な感情表現とエネルギッシュな舞台パフォーマンスを存分に見せつけています。
序盤こそあどけなさが残るものの、厳しいレッスンや差別的な仕打ちを重ねるうちに、彼女の瞳がどんどん“追い詰められた人”のそれに変化していく。中盤で母親と衝突するシーンでは、「踊り続けるしかない」という覚悟と孤独が一瞬の表情に凝縮され、観客の胸をえぐるように訴えかけてきます。ボリショイ入団を勝ち取るため、思い切った手段に踏み切る姿には、現実にこんな人がいるのかとゾッとするようなリアルさがあり、その狂気とも呼べる執念に目を奪われるはずです。
教師ヴォルコワの多面性
ダイアン・クルーガーが演じるヴォルコワは、罵声や激しい叱責を浴びせる“暴君”型の教師として登場します。一方で、物語が進むにつれ、かつて自身も芸術を極めるために大きな犠牲を払った人間としての側面がちらりと見え隠れするため、単なる“悪役”にとどまらない深みが与えられています。
徹底的にジョイを鍛え上げる一方で、自分のかつての姿を重ねているかのように感じられる場面もあり、師弟関係に潜む愛憎劇が見どころの一つです。「セッション(Whiplash)」を連想する人もいるかもしれませんが、ヴォルコワ自身の内面描写が多面的であるぶん、より人間らしく、そして残酷に映るのが本作ならではの魅力でしょう。

過酷な環境と陰湿ないじめのリアル
バレエ映画といえば、華麗さや優雅さを想像しがちですが、『JOIKA』ではボリショイの裏側を容赦なく切り取ります。トウシューズにガラス片を仕込むなどの妨害工作は日常茶飯事で、男性クラスは仲間を称賛し合うのに対し、女性クラスでは成功した者に唾を吐きかけるという陰湿さすら描かれます。
序盤では手持ちカメラの揺れる映像も用いられ、ジョイの不安や恐怖をそのままスクリーンに投影している点も印象的です。観客も登場人物と同じく神経をすり減らしながら、この圧倒的に厳しい環境を目の当たりにすることになります。
「美」と「狂気」の境界を問いかけるテーマ性
バレエという極限まで美を追求する芸術形態だからこそ、本作にはサイコサスペンス的な“狂気”が同居しています。『ブラック・スワン』のように幻想的な表現に頼らず、純粋に現実の中で人が追い詰められ、狂気へ足を踏み入れていく過程を描いている点が大きな特徴です。
ジョイは“完璧なプリマになる”という崇高な目標を言い訳にして、体力も精神も限界まで酷使し、周囲すら巻き込むほどの執念を見せ始めます。その姿は、「そこまでして何を得るのか?」という疑問を観客に突きつけ、同時に夢を追う崇高さと危うさが紙一重であることをまざまざと思い知らせてくれます。実話ベースという重みが、観終わった後の余韻をより深いものにしている点も見逃せません。
映像・音響の細やかな“痛み”表現
映像と音響が巧みに組み合わさり、バレエの美と痛みが同時に迫ってくるのも本作の大きな魅力です。トウシューズで立つたびに聞こえる軋む音や、呼吸が荒くなる瞬間をクローズアップする演出によって、観客はまるで自分の足元まで痛みが伝わってくるかのような錯覚を覚えます。
クラシック音楽の優美さと、骨や筋肉のきしむ効果音が重なるシーンはとりわけ印象深く、“美しくも痛々しい”バレエの世界を余すところなく映し出しているのです。そのギリギリの緊張感がどこまで高まるのかは、ぜひ劇場で体感してみてください。
まとめ
『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』は、実在のバレリーナ・ジョイ・ウーマックの軌跡を通して、バレエの華やかさの裏にある過酷さと“狂気”のような情熱をあぶり出す作品です。純粋な成功譚とは一線を画し、追い詰められた人間の心理や、教師と弟子が持つ愛憎入り混じった関係をえぐることで、観る者に強烈な印象を与えてくれます。
私自身、鑑賞後はしばらく「彼女は何を得て、何を失ったのか」と考え込みました。成功を勝ち取る歓喜と、その代償の重さは人によって評価が分かれるかもしれません。しかし少なくとも「観たあとも問いかけが頭から離れない映画」であることは間違いなく、派手なサプライズはなくとも“内面を抉る衝撃”がじわじわと残り続けます。
もし「バレエにはあまり興味がない」という方でも、夢を追う人間の姿として共感できる部分は多いはず。スポ根映画や、極限まで努力を重ねるストイックな物語が好きな方なら、なおさら楽しめると思います。気になった方は、ぜひ劇場へ足を運んでその“美と狂気”に満ちた世界を体験してみてください。きっと見終わったあと、誰かと感想を交わしたくなる作品です。
- IMDb『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』
キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。