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【ネタバレなし】映画『ノスフェラトゥ』(2024)レビュー。映像美は圧巻!でも私が心惹かれなかった理由とは?

映画『ノスフェラトゥ』基本データ

  • 原題: Nosferatu
  • 監督: ロバート・エガース
  • 主要キャスト:
    • オルロック伯爵(ビル・スカルスガルド)
    • エレン・ハッター(リリー=ローズ・デップ)
    • トーマス・ハッター(ニコラス・ホルト)
    • アルビン・エバーハート・フォン・フランツ教授(ウィレム・デフォー)
    • フリードリヒ・ハーディング(アーロン・テイラー=ジョンソン)
    • アンナ・ハーディング(エマ・コリン)
    • ヴィルヘルム・シーヴァース医師(ラルフ・アイネソン)
    • ノック(サイモン・マクバーニー)
  • 公開年: 2024年(米国)、2025年5月16日(日本)
  • 上映時間: 133分
  • 主な受賞・ノミネート歴:
    • 第97回 アカデミー賞(2025年)美術賞、撮影賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞 ノミネート
  • 視聴方法(2025年5月現在):
    • 全国の劇場で公開中

この記事でわかること

  • ロバート・エガース監督最新作『ノスフェラトゥ』(2024)の基本的な情報とあらすじ。
  • 1922年のオリジナル版と比較した、リメイク版の個人的な評価点と疑問点。
  • 息をのむような映像美と、ゴシックホラーとしての世界観の魅力。
  • なぜこのリメイク版が「素晴らしい映画」でありながらも、個人的に「心を掴まれなかった」のか、その理由。
  • オリジナル版と合わせて観ることで深まる『ノスフェラトゥ』の世界。

はじめに

『ねことシネマ』へ、ようこそ!たくさんの映画ブログがある中で、この記事にたどり着いてくれて、本当にありがとうございます。

さて今回は、公開をずっと心待ちにしていたロバート・エガース監督の最新作『ノスフェラトゥ』について。あの『ウィッチ』や『ライトハウス』で、唯一無二の映像世界と観る者の心を鷲掴みにする強烈な作品を叩きつけてきたエガース監督。彼が、サイレント映画の伝説的作品『吸血鬼ノスフェラトゥ』をリメイクすると知った日から、私の期待値は最高潮でした!

私の地元、群馬県ではなかなかこうした作品が公開されないこともあるのですが、いつも頼りにしているシネマテークたかさきさんで鑑賞することができました。本当に、シネマテークたかさきさんには感謝しかありません!

で、観終わった直後の正直な気持ちは…「映像も雰囲気も最高!なのに、なぜか私の心は揺さぶられなかった…」。もちろん、その日はヘトヘトで、正直ちょっとウトウトしてしまった瞬間もあったので、万全のコンディションでもう一度観たい!とは思っています。

この記事では、なぜ私がそう感じたのか、作品の素晴らしい点と、どうしても引っかかってしまった点を、1922年のオリジナル版(こちらも以前鑑賞済みです。パブリックドメインなのでYouTubeなどで気軽に観られますよ!)との比較も交えながら、率直にお話しできればと思います。

この映画、きっと観る人によって様々な感想が飛び交う、懐の深い作品だと思います。もし、これから鑑賞される方や、すでに鑑賞された方で「他の人はどう感じたんだろう?」と気になっている方がいらっしゃいましたら、ぜひ最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

あらすじ

物語の基本的な骨子は、1922年のオリジナル版とほとんど変わっていないと感じました。

若き不動産業者トーマス・ハッター(ニコラス・ホルト)は、自身の城の売却を希望する謎めいたオルロック伯爵(ビル・スカルスガルド)のもとへ、仕事のために人里離れたカルパチア山脈の城へと旅立ちます。トーマスの不在中、彼の若く美しい妻エレン(リリー=ローズ・デップ)は、夫の友人ハーディング夫妻の家で過ごしますが、ある時から夜ごと夢の中に現れる正体不明の男の幻影と、言いようのない恐怖感に苛まれるようになります。

そして、時を同じくして、トーマスやエレンが暮らすヴィスブルクの町にも、原因不明の疫病や不可解な出来事といった、様々な災いが忍び寄り始めるのでした……。

(C)2024 Focus Features LLC. All rights reserved.

※以下、物語の核心には触れませんが、作品の雰囲気や演出に関する具体的な言及が含まれます。

作品の魅力

ここからは、私がこのリメイク版『ノスフェラトゥ』を鑑賞して、特に心に残った点や、個人的に考えさせられた点について、少し掘り下げてお話ししたいと思います。

息をのむ映像美:これぞゴシックホラーの極致!

まず、手放しで絶賛したいのが、本作の「ルックの良さ」、つまり映像美です!これは本当に素晴らしかった。ジャンルとしてはゴシックホラーに分類されると思うのですが、常に画面全体を覆う影の深さ、しっとりとした闇の質感、そしてその中に効果的に差し込む月明かりや揺らめく蝋燭の炎とのコントラスト。照明と影の使い方が徹底されていて、まさに「これぞゴシックホラー!」と唸らされる絵作りの連続でした。

ロバート・エガース監督と撮影監督ジャリン・ブラシュケのタッグは、過去作でもその映像センスに定評がありましたが、本作の映像は、彩度を抑えたカラーで統一されながら、まるでモノクロ映画のような重厚感を湛えており、特にろうそくの光だけで照らし出されているかのようなシーンが多く見受けられました。また、人間の目が暗闇で知覚する光の波長を再現するために特別なフィルターを開発したり、1830年代のドイツの建築や衣装を徹底的に再現した広大なセットや、時代考証に基づいた衣装など、細部に至るまでのこだわりが、この圧倒的な世界観を生み出しているようです。

(C)2024 Focus Features LLC. All rights reserved.

個人的には、フロム・ソフトウェアのゲーム『ブラッドボーン』の世界観を彷彿とさせる画面だと感じ、ゾクゾクするほど好みの絵作りでした。あの、陰鬱で、どこか退廃的でありながらも荘厳な美しさを湛えた雰囲気が好きな方なら、きっとこの映画のビジュアルに引き込まれるはずです。

この芸術的とも言える映像は、やはり映画館の大きなスクリーンでこそ真価を発揮すると思います。この映像美を体験するだけでも、本作をリメイクした価値は十分にあったと断言できますし、それくらい素晴らしいものになっていました。

オリジナル版との比較:追加された要素と「リメイクの意義」について思うこと

先ほども触れましたが、物語の大筋は1922年のオリジナル版とほぼ同じです。しかし、当然ながらリメイク版にはいくつかの改変や追加要素が見られました。

オリジナル版の上映時間が約94分と比較的コンパクトだったのに対し、今回のリメイク版は約133分と、40分近く尺が増えています。この増加した時間で、オリジナル版にはなかった登場人物たちの背景や関係性、新たなドラマ展開などが描かれており、それによってキャラクターに深みを与えることには成功していると感じました。例えば、エレン・ハッターの内面や、彼女とオルロック伯爵との間にある種のサイキックな繋がりを示唆する描写は、オリジナル版よりも踏み込んで描かれていたように思います。調べたところによると、エガース監督は本作を「エレンの物語」として再構築し、彼女を単なる犠牲者ではなく、19世紀の抑圧的な社会と吸血鬼という二重の脅威に立ち向かう女性として描こうとした意図があったようです。

具体的にどこが違うかは、ぜひご自身の目で確かめてほしいのですが…正直、追加されたエピソードのいくつかが、私には少し長く感じられてしまいました。

リメイクって、元ネタをなぞるだけじゃ物足りないですよね。現代だからこその新しい視点や、オリジナルを超える衝撃、そういう「化学反応」を期待しちゃうんです。

今回の『ノスフェラトゥ』では、その追加部分が物語全体のテンポを少しゆったりさせてしまい、オリジナル版の持つ刃物のような鋭い緊張感が、やや薄れてしまった気がしました。これが、私が本作に完全にノックアウトされなかった大きな理由の一つです。

サイレント映画の魅力と、リメイク版の「ハラハラ感」

1922年のオリジナル版『吸血鬼ノスフェラトゥ』はサイレント映画です。セリフは字幕で補われ、役者の表情や仕草、そして映像そのものの力で物語を語り、観客を魅了しなければなりません。この制約があるからこそ生まれる独自の美学や、シンプルでありながらも力強い表現というのは、映画の原点とも言える魅力だと感じています。チャップリンやバスター・キートンの作品など、サイレント映画には時代を超えて愛される傑作が多いですよね。

オリジナル版の『ノスフェラトゥ』は、マックス・シュレック演じるオルロック伯爵の、一度見たら忘れられない異様な風貌やディテールの怖さ、そして「トーマス・ハッターが伯爵の城へ出かけている間に、吸血鬼がエレンを目当てに家へと迫ってくる」というシンプルな筋立てから生まれる、純粋なサスペンスと恐怖が凝縮されていて、1本の映画として非常に完成度が高いと、私は今でも思っています。

もちろん、今回のリメイク版にもハラハラドキドキする感覚はありました。特にビル・スカルスガルド演じるオルロック伯爵の存在感は圧倒的で、そのグロテスクでありながらどこか悲哀を感じさせる姿は、まさに「純粋な悪」や「冒涜的な恐怖」を具現化したかのようでした。リリー=ローズ・デップ演じるエレンも、その儚げな美しさの中に、運命に抗おうとする意志の強さを感じさせ、素晴らしかったです。

(C)2024 Focus Features LLC. All rights reserved.

しかし、オリジナル版が持っていた、ある種「ハラハラ感一本」でグイグイと観客を引き込んでいくようなストレートな魅力と比較すると、リメイク版では新たなキャラクターや彼らが織りなすドラマ展開が加わったことで、良くも悪くも物語の焦点が分散し、元々あった鋭い緊張感が少し薄まってしまったように感じられたのかもしれません。私にはそれが、元々軸のしっかりした素晴らしい物語に、少し余分なものが付け加えられてしまったような印象に繋がったのです。

音声表現への個人的な疑問符

もう一つ、個人的に少し気になったのが、音声表現、特にオルロック伯爵の声についてです。 リメイク版の伯爵は、加工されたような非常に低い声で話すのですが、これが私にはどうも安っぽく感じられてしまいました

オリジナル版はサイレント映画ですから、当然キャラクターの声は観客一人ひとりの想像に委ねられます。それがかえって、観る者の内なる恐怖を掻き立てる効果を生んでいたように思うのです。リメイク版の、明らかに「怖いだろう?」と意図されたような加工音声による恐怖演出は、私にはやや直接的すぎるというか、少し安易な煽り方のように感じられ、あまり好みではありませんでした。

もちろん、トーキー(発声映画)として現代に『ノスフェラトゥ』を作り直す以上、キャラクターに声を与えるのは当然のことであり、難しいさじ加減だったとは思います。ただ、この点に関しては、オリジナル版の「語らぬ故の怖さ」の方に軍配を上げたい、というのが正直なところです。

それでも色褪せない、作品の核となるテーマ性

ここまで、少しネガティブな感想も述べてきましたが、それでもなお、この映画が持つテーマの深さや、問いかけてくるものの重さには、揺るさぶられるものがありました。

この映画は、「悪と強迫観念の本質」「女性の主体性、セクシュアリティ、そして社会的抑圧」「家父長制や資本主義への批判」「孤立と繋がりの模索」など、多くの深いテーマを扱っていると言えるでしょう。特にエレン・ハッターという女性が、吸血鬼という超自然的な恐怖だけでなく、19世紀の家父長的な社会の中でいかに抑圧され、その特異な感受性故に「憂鬱」や「ヒステリー」といったレッテルを貼られてしまうのか、という視点は、現代にも通じる普遍的な問いを投げかけているように感じました。

オルロック伯爵という存在も、単なる怪物としてだけでなく、そうした社会の歪みや人々の心の隙間に忍び寄る「腐敗」や「悪意」の象徴として描かれているのかもしれません。こうした深読みを可能にする多層的な物語性は、さすがロバート・エガース監督作品といったところでしょうか。

まとめ

色々と個人的な感想を述べてきましたが、ロバート・エガース監督による『ノスフェラトゥ』は、決して悪い映画ではありません。むしろ、その圧倒的な映像美と世界観の構築、そして根底に流れる重厚なテーマ性は、間違いなく素晴らしい映画だと断言できます。批評家からの評価も非常に高いようですし、多くの方が絶賛するであろうことも十分に理解できます。

ただ、私個人としては、オリジナル版の持つシンプルで凝縮された恐怖や、リメイク版の追加要素の冗長性といった点が少し気になり、「心を鷲掴みにされた!」とまでは至らなかった、というのが正直な気持ちです。とはいえ、これは鑑賞時の体調も影響しているかもしれませんし、もう一度、万全の状態で観たら全く違う感想を抱く可能性も大いにあります。

実は、この記事を書いている途中で、1979年にもヴェルナー・ヘルツォーク監督(クラウス・キンスキー主演)によるリメイク版『ノスフェラトゥ』が存在することを知りました。こちらも非常に評価が高い作品のようなので、近いうちにぜひ鑑賞して、三作品を比較してみたいという新たな楽しみもできました。

結論として、今回のロバート・エガース版『ノスフェラトゥ』は、観る価値が大いにある、むしろ映画好きなら観るべき作品だと思います。特に、あの息をのむようなゴシックホラーの映像美は唯一無二と言っても過言ではなく、大画面で体験する価値は十分にあります。 もし機会があれば、1922年のオリジナル版(パブリックドメインなので、気軽に視聴できますよ!)と合わせて鑑賞されることを強くお勧めします。そうすることで、リメイク版の新たな試みや、逆にオリジナル版の偉大さを再発見できるかもしれません。

皆さんも、この美しくも恐ろしいダーク・ファンタジーの世界に浸ってみてはいかがでしょうか。きっと、あなたの心にも何か深い印象を残すはずです。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。 あなたはこの映画『ノスフェラトゥ』のどんなところが好きですか?あるいは、どんなところに疑問を感じましたか?ぜひコメントで、あなたの感想も教えていただけると嬉しいです!

それでは、また次回の『ねことシネマ』でお会いしましょう。

  • IMDb『ノスフェラトゥ
    キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。
  • この記事を書いた人

HAL8000

映画と猫をこよなく愛するブロガー。 多いときは年間300本以上の映画を観ていて、ジャンル問わず洋画・邦画・アニメ・ドキュメンタリーまで幅広く楽しんでいます。

専門的な批評はできませんが、ゆるっとした感想を気ままに書くスタンス。 ブリティッシュショートヘア×ミヌエットの愛猫ハルも自慢したいポイントで、レビューの合間に猫写真や日常もたまに紹介しています。

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