映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』基本データ
- 原題: The Nightmare Before Christmas
- 監督: ヘンリー・セリック
- 原案・製作: ティム・バートン
- 音楽: ダニー・エルフマン
- 主要キャスト(声の出演):
- クリス・サランドン(ジャック・スケリントン/話し声)
- ダニー・エルフマン(ジャック・スケリントン/歌声)
- キャサリン・オハラ(サリー)
- ウィリアム・ヒッキー(フィンケルスタイン博士)
- ケン・ペイジ(ウギー・ブギー) ほか
- 公開年: 1993年(アメリカ)、1994年(日本)
- 上映時間: 76分
- 配給: タッチストーン・ピクチャーズ(公開当時)
- 視聴方法:
- ディズニープラスなど各種動画配信サービスで配信中
- DVD・Blu-ray 発売中
この記事でわかること
- 多くの人が誤解している?本作の「本当の監督」にまつわる真実
- 鑑賞のきっかけとなったディズニーランドのアトラクション体験談
- 現代のCGに匹敵する、奇跡的なストップモーション技術の裏側
- 主人公ジャックはヒーロー?それとも独善的なヴィラン?という多角的な視点
- ハロウィンとクリスマスの融合がもたらす、物語の奥深いテーマ
はじめに
こんにちは。当ブログ『ねことシメマ』へようこそ。 すっかり秋めいて、ハロウィンの季節がやってきましたね。今回は、この時期に無性に観たくなる不朽の名作、ヘンリー・セリック監督の映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』について、改めて語ってみたいと思います。
なぜ今、このあまりにも有名な作品を取り上げるのか。それはもちろん、季節が一番の理由です。先日、ハロウィンイベントが始まった東京ディズニーランドへ行ってきまして、お目当てはもちろん、この時期恒例の「ホーンテッドマンション “ホリデーナイトメアー”」でした。もともと大好きなアトラクションが、ジャックやサリーたちのモチーフで彩られるこの特別バージョンは、毎年の楽しみなんです。


アトラクションを心ゆくまで楽しんだ帰り道、「そういえば、本家の映画って最近じっくり観ていなかったな」と思い立ち、久しぶりに鑑賞してみることにしました。細かい部分を忘れていたおかげで、驚くほど新鮮な気持ちで鑑賞できたのですが…いやはや、その色褪せない魅力、そして大人になった今だからこそ刺さる物語の深さに、見事に心を鷲掴みにされてしまったんです。
この記事では、そんな私の「再発見の感動」を、皆さんにもおすそ分けさせてください。有名な作品ですが、意外と知られていない制作の裏側にも少し触れながら、その魅力を掘り下げていきたいと思います。
あらすじ
※物語の核心には触れませんが、基本的な展開についての記述があります。
舞台は、奇妙で不気味な住人たちが暮らす「ハロウィン・タウン」。そこの人気者であり、“カボチャ大王(パンプキン・キング)”と称えられるジャック・スケリントンは、毎年寸分違わず繰り返されるハロウィンの準備と本番に、心の底から飽き飽きしていました。
そんなある日、失意のまま森をさまよっていたジャックは、不思議な模様が描かれた扉が並ぶ奇妙な場所を発見します。その中の一つ、クリスマスツリーの形をした扉を開けると、そこはハロウィン・タウンとは正反対の、陽気で明るく、きらびやかな「クリスマス・タウン」でした。
初めて見る光と喜びに満ちた世界にすっかり心を奪われたジャックは、自分たちの手で「クリスマス」を実行しようと計画を立てます。しかし、クリスマスが何なのかを全く理解していないハロウィン・タウンの住人たちが作り出すクリスマスは、どこか不気味で恐ろしいものばかりで――。
作品の魅力
久しぶりに鑑賞して、やはりこの作品は唯一無二の傑作だと再認識しました。ここからは、私が特に心を揺さぶられたポイントについて、少しだけ深く掘り下げてみたいと思います。
息をのむ職人技!ストップモーションの魔法
まず、この作品の魅力を語る上で絶対に外せないのが、その驚異的な映像表現です。本作は「ストップモーションアニメ」という、人形を少しずつ動かしながら一コマずつ地道に撮影していく、非常に手間のかかる手法で作られています。
映画は1秒間に24コマの静止画で構成されているので、わずか1秒の映像のために、24回も人形のポーズを微調整して撮影しなくてはなりません。本作の上映時間は76分。単純計算でも、とてつもない時間と労力がかかっていることが想像できます。
しかし、スクリーンに映し出される映像は、まるで現代のフルCGアニメーションかと見紛うほど滑らかです。キャラクターたちの動きは信じられないほど生き生きとしており、これがすべて手作業で生み出されたとは、にわかには信じがたいクオリティです。
本作について少し調べてみたところ、この76分の映画を完成させるために、100人以上のスタッフが実に3年以上もの歳月を費やしたそうです。主人公ジャックの豊かな表情を生み出すためだけでも、なんと約400種類もの交換可能な頭部が用意されたといいますから、そのこだわりはまさに狂気の域。これはもはやアニメーション制作という名の、凄まじいまでの忍耐と精密さが求められる「職人技の芸術」。その執念の結晶を前に、ただただ圧倒されるばかりです。
不気味なのに、なぜか愛おしいキャラクターたち
ティム・バートン氏が原案と製作を手掛けた本作は、そのキャラクターや美術デザインも強烈な魅力を放っています。彼の監督作である『フランケンウィニー』や、昨年続編が公開され話題となった『ビートルジュース』にも通じる、ゴシックで奇妙な、それでいてどこか愛嬌のある独特の世界観がたまりません。
よくよく見ると、ハロウィン・タウンの住人たちは不気味で、少し気持ち悪ささえ感じさせるデザインをしています。それでも、彼らが不思議と世界中で愛されるディズニーキャラクターとして成立しているのですから驚きです。本来であれば相容れないはずの「不気味さ」と「商品としてのかわいらしさ」、その奇跡的なバランスの一点を完璧に突いたデザインセンスには、ただただ脱帽するばかりです。
この視覚的な魅力は、ハロウィン・タウンとクリスマス・タウンの鮮やかな対比によって、さらに際立っています。月明かりに照らされたモノクローム基調で、何もかもが歪んでいるゴシックなハロウィン・タウン。対照的に、暖かな色彩に溢れ、すべてが柔らかい曲線で構成された、きらびやかなクリスマス・タウン。この二つの世界の強烈なコントラストが、視覚的にも物語的にも、私たちを深く引き込んでくれるのだと感じます。
物語を動かす魂の音楽と、個人的な思い出
本作は、ダニー・エルフマン氏が手掛けた音楽の素晴らしさも特筆すべき点です。ミュージカル形式で進む物語の楽曲はどれも名曲揃いですが、特にオープニングを飾る「This Is Halloween」は、一度聴いたら忘れられないインパクトがありますよね。
ここで少し、私個人の話をさせてください。私がこの作品と強烈な出会いを果たしたのは、実は映画ではなく、ゲームの『キングダム ハーツ』だったんです。当時、ゲームがあまり得意ではなかった私は、ジャックが登場する「ハロウィンタウン」のステージにたどり着くまでが一苦労で…。何度もゲームオーバーを繰り返しながら、ようやくたどり着いたその場所で、私を迎えてくれたのが「This Is Halloween」でした。何度も聴くうちに、いつしか「ハロウィンといえばこの曲」と、自分の中に深く刻み込まれていったのです。
ですから、後に映画本編を初めて観て、冒頭でこの曲が流れ出した時の感動はひとしおでした。「これだったのか!」と、長年の答え合わせができたような、胸が熱くなる感覚を今でも覚えています。
実は作曲家のダニー・エルフマン氏は、ジャック・スケリントンの歌声も担当しています。彼は単なる音楽担当ではなく、脚本家や監督と並ぶ「第三の主要な作者」と評価されるほど、本作の物語構築に深く関わっているわけです。音楽が後付けされるのではなく、音楽が物語を力強く牽引していく。だからこそ、本作の楽曲はこれほどまでに私たちの心を掴んで離さないのかもしれません。
ヒーローか、ヴィランか?ジャックの抱える現代的な苦悩
本作の主人公ジャック・スケリントンは、世界中で愛される人気者です。作中にはウギー・ブギーという明確な悪役(ヴィラン)が存在するため、相対的にジャックはヒーローとして描かれています。
しかし、今回改めて鑑賞して、彼の行動を冷静に追ってみると、少し違った見方ができることに気づきました。彼の行いはかなり独善的で、見方によってはヴィランそのものとも言えるのではないでしょうか。
「毎年同じことの繰り返しで退屈だ」という、言ってしまえば個人的なマンネリ感から、「クリスマスを自分たちの手でやりたい」というエゴに突き動かされていく。彼の行動はすべて、自身の欲望を満たすためにあります。クリスマスが何かも知らない町の住人たちを巻き込み、善意からサンタクロースを誘拐するという、とんでもない暴挙にまで出てしまいます。
このジャックの物語は、実はとても現代的なテーマを内包しているという見方もできます。ハロウィンの王様として成功の頂点に立ちながらも、虚しさを感じていわゆる「燃え尽き症候群」に陥っている。そして、異文化であるクリスマスを、その本質や精神性を理解することなく、表層的な要素(プレゼントやトナカイ)だけで模倣しようとして大失敗してしまう。
そう考えると、彼の物語は単なる休日の大騒動ではなく、自分自身のアイデンティティを見失った者が、壮大な失敗を経て、改めて「自分らしさ」への情熱を取り戻していく再生の物語として読み解くことができます。クライマックスで彼が「僕こそがパンプキン・キング、ジャックだ!」と歓喜の声をあげるシーンは、まさに自己肯定の瞬間です。一見すると破天荒で自分勝手なキャラクターですが、その根底には、誰もが共感しうる普遍的な苦悩と成長が描かれている。それこそが、ジャックが今なお世界中で愛され続ける理由なのかもしれません。
【衝撃の事実】ナイトメアー・ビフォア・クリスマスはティム・バートンが監督ではない
ここで、長年のファンも意外と知らない(そして私が最近知って衝撃を受けた)事実を告白します。この映画、ティム・バートンの監督作品ではなかったのです。
本作の監督は、ヘンリー・セリック氏という方です。 もちろん、原案の詩を書き、キャラクターをデザインし、プロデューサーとして世界観を統括したのがティム・バートン氏であることは間違いありません。しかし、膨大な時間と労力がかかるストップモーションアニメの現場で、数年という歳月をかけて、一コマ一コマに命を吹き込んだのは、ヘンリー・セリック監督と彼のチームだったのです。
ではなぜ、『ティム・バートンの』と彼の名前が冠されているのか。これは、当時『バットマン』などの大ヒットで絶大な知名度とブランド力を持っていたバートン氏の名前をタイトルに入れることで、興行的な成功を確実にしようという、配給会社の商業的な判断が大きかったようです。この事実は、本作の奥深さを知る上で非常に興味深いエピソードだと感じました。
まとめ
久しぶりに『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』を鑑賞し、その唯一無二の魅力と、大人になったからこそ理解できる物語の深さに、改めて感動させられました。映像、デザイン、音楽、そして物語、そのすべてが一級品の芸術作品でありながら、最高のエンターテインメントとして成立している奇跡のような映画です。
そして、やはり東京ディズニーランドの「ホリデーナイトメアー」は最高でした。アトラクションに乗って、つぎはぎだらけの身体で懸命にジャックを想うサリーのことが、もっともっと大好きになりました。
今年のハロウィンの夜は、少し不気味で、けれどどこか心温まるこの傑作を鑑賞してみてはいかがでしょうか。きっと新たな発見があるはずです。 これから観る方も、もう一度観る方も、ぜひ楽しんでくださいね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。あなたはこの映画のどんなところが好きですか?ぜひコメントで教えていただけると嬉しいです!
- IMDb『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』
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