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【ネタバレあり】映画『ウォーフェア』感想:物語を捨てた95分の「凶器」。A24が描く地獄の戦場体験

映画『ウォーフェア 戦地最前線』基本データ

  • 原題:Warfare
  • 公開年:2025年(米国)、2026年1月16日(日本)
  • 監督・脚本
    • レイ・メンドーサ
    • アレックス・ガーランド
  • 製作:DNA Films / A24
  • 主要キャスト
    • ディファラオ・ウーン=ア=タイ(レイ)
    • ウィル・ポールター(エリック)
    • コズモ・ジャービス(エリオット) ほか
  • 上映時間:95分
  • 視聴方法:全国の劇場で公開中(2026年1月現在)

この記事でわかること

  • 『シビル・ウォー』のアレックス・ガーランドと元特殊部隊員が挑んだ「究極の没入体験」とは
  • なぜ本作において「ストーリー」や「時間の省略」が排除されたのか
  • セルジオ・レオーネ作品にも通じる「待つ時間」のサスペンスとリアリティ
  • 「映画館で観ないと後悔する」と断言できる音響設計の凄まじさ
  • カタルシス皆無のラストが突きつける「反戦」のメッセージ

はじめに

こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。

皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
本日、2026年1月25日の日曜日。私は今日、ようやく映画館に行くことができました。

実はここ最近、少し体調を崩して寝込んでおりまして……。
普段の私なら、話題作や自分が観たい映画は、公開初日か遅くともその週のうちには必ず劇場へ足を運ぶようにしています。しかし、今回ばかりは体調には勝てず、公開2週目にしてようやくの鑑賞となりました。

その、どうしても映画館で観たかった作品とは、『ウォーフェア 戦地最前線』(原題:Warfare)です。

あのA24配給、そして『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のアレックス・ガーランドが、元ネイビーシールズのレイ・メンドーサとタッグを組んだという本作。 予告編や情報を目にした段階で、私の直感が「これは配信で済ませてはいけない。劇場という空間で体感しなければ、その真価の1割も分からないだろう」と告げていました。

病み上がりの体に鞭打って……というのは大袈裟ですが、回復したその足で劇場に向かわずにはいられない、そんな“使命感”すら覚える一作でした。 今回は、この衝撃的な「戦場体験」について、率直な感想を綴っていきたいと思います。

(C)2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

あらすじ

※以下、物語の核心には触れませんが、展開に関するネタバレを含む可能性がありますのでご注意ください。

舞台は2006年、イラク戦争の激戦地ラマディ。 アメリカ軍特殊部隊の8人の兵士からなる小隊は、アルカイダ幹部を監視・狙撃するため、ある民家を制圧して拠点とします。

しかし、彼らの潜伏は想定よりも早く敵に察知されてしまいます。 突如として始まる先制攻撃。退路を断たれ、完全に包囲された彼らは、四方八方から銃弾が降り注ぐ市街地戦の真っただ中へと放り込まれます。 次々と重傷を負う仲間たち、混乱の中で指揮系統を失いかけるリーダー、絶え間なく響く銃声と悲鳴。

増援もままならない極限状態の中、彼らはただ「生き延びる」ためだけに、絶望的な時間を過ごすことになります。そこにあるのは、英雄的な活躍でもドラマチックな奇跡でもなく、泥と血にまみれた現実だけでした。

作品の魅力:物語を捨て、五感をハックする95分

鑑賞後の率直な感想は、「凄まじいものを目撃してしまった」という疲労感と、作り手への惜しみない拍手でした。 私がなぜここまで「劇場鑑賞」にこだわったのか、そして本作が従来の戦争映画と何が違うのか。その理由を紐解いていきます。

ストーリーを排除した「純粋な体験」

まず驚かされたのは、この映画が「ストーリー性」を徹底的に排除している点です。

アレックス・ガーランド監督の前作『シビル・ウォー』も、戦場の恐ろしさを肌で感じるような傑作でしたが、あちらにはまだ「ジャーナリストが目的地を目指す」というロードムービー的な物語の骨格がありました。 しかし、今回の『Warfare』にはそれがありません。「誰かが成長する」とか「大義のために戦う」といったドラマチックな要素が削ぎ落とされ、ただひたすらに「戦場の混沌(カオス)を体験させる」という一点に特化しているのです。

95分間、私たちは安全な客席から引きずり下ろされ、兵士たちのすぐ隣、半径数メートルの空間に放り込まれます。 そこには、映画的な「分かりやすさ」はありません。誰が主人公で、誰が脇役かというスターシステムすら希薄で、部隊全体が一つの生き物のように、ただ翻弄されていく。 この「無駄のなさ」は、共同監督であるレイ・メンドーサ自身の実体験、つまり「個人の記憶」に基づいているからこそでしょう。マクロな戦況説明や政治的な背景(なぜここにいるのか)を一切省き、兵士の肉体が見て、聞いて、感じたことだけを映像化する。その徹底したアプローチが、本作を唯一無二の「体験型映画」にしています。

「時間の魔法」を排除したリアルな演出

本作を観ていて特にハッとさせられたのが、「時間の経過」の描き方です。 通常の映画であれば、編集によって「退屈な時間」はカットされますよね。移動、待機、監視……そういった場面はパパッと省略され、おいしいアクションシーンへと繋げられるのが常です。これがいわゆる、映画ならではの「時間の魔法」です。

しかし、『Warfare』はこの魔法を使いません。

冒頭、兵士たちが建物の中からスナイパーライフルで外を監視するシーンがあります。ここが、映画的な感覚で言うと、かなり「長い」のです。 カットを細かく割ることなく、彼らが静かにスコープを覗き、たまに冗談を言い合い、また沈黙する時間を、じっくりと映し出します。 「いつ何かが起きるんだ?」と、観客である私たちがそわそわし始めるくらいの長さ。でも、これこそが「戦場のリアル」なんですよね。戦争はエンタメ作品のように都合よく進んではくれません。「待つ」という行為そのものが任務であり、そこにはとてつもない緊張感と退屈が同居しているはずです。

この演出を見て、私はセルジオ・レオーネ監督の『ウエスタン』を思い出しました。 あの映画の冒頭、駅で列車を待つ男たちの姿を延々と描いた、映画史に残る名シーン。あれもまた、決闘の前に流れるヒリヒリとした濃密な時間を可視化していました。 『Warfare』もまた、あえてこの「時間の長さ」を描くことで、その後の爆発的な暴力との対比を生み出しています。

平和で退屈な日常が、一瞬にして地獄へと変わる。その境界線のなさ、地続きの恐怖を描くために、この「長さ」は必要不可欠だったのだと痛感しました。

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劇場でなければ聞こえない「死の音」

そして、私が「絶対に映画館で」と確信していた理由の核心が、音響です。 本作の音作りは、はっきり言って「凶器」です。

従来の映画のような、重低音の効いた派手な銃声(バン!ドーン!)とは違います。 ここで聞こえるのは、弾丸が音速を超えて飛来した瞬間の衝撃波、乾いた「スナップ音(パチン!)」です。 レイ・メンドーサ監督の監修によるものでしょうが、この「パチン!」という音が聞こえた瞬間、兵士たちが反射的に首をすくめる生理的な反応がリアルすぎて、観ている私までビクッと体が反応してしまいました。

また、爆発の轟音と同じくらい恐ろしいのが「静寂」の使い方です。 至近距離で爆発が起き、鼓膜がおかしくなった兵士の主観(耳鳴りだけの世界)になる瞬間。あるいは、銃撃が止んだ直後の、耳が痛くなるような静けさ。 「また来るのか?」「どこから撃ってくるんだ?」という疑心暗鬼を生むこの静寂は、整った音響設備のある劇場でなければ、その真の恐ろしさは体感できないでしょう。 (自宅のテレビでは、どうしても生活音が混じってしまい、この「真空パックされたような緊張感」は薄れてしまうはずです。)

象徴的な「Call On Me」の違和感

余談ですが、映画の冒頭で流れるエリック・プライズの『Call On Me』のMVも強烈でしたね。 セクシーなエアロビクスの映像と、それに合わせてふざけ合う兵士たち。一見すると、このシリアスな映画にはあまりに不釣り合いな、底抜けに明るく、ある種「下世話」な映像です。 でも、あの強烈な違和感こそが、彼らがまだ「平和な日常」と繋がっていることの証だったんですよね。あの瞬間の彼らの笑顔が、この映画で見られる最後の心からの笑顔だったのだと思うと、胸が締め付けられます。

まとめ:カタルシスなき「体験」が突きつける反戦

本作には、映画的なカタルシスは一切ありません。 「必ず生きて帰る」と誓い合う感動的なシーンもなければ、最後に敵を倒して大団円、ということもない。 ただ、攻撃を耐え、仲間を引きずり、泥水をすすることに必死になる。

観ている最中、私は何度も心の中で「早く終わってくれ」と願ってしまいました。 「もう十分だ、早くこの地獄から解放してくれ」と。 でも、そうやって観客に「戦争なんて早く終わればいい」と生理的に思わせることこそが、作り手の狙いであり、究極の「反戦」メッセージなのではないでしょうか。

『西部戦線異状なし』のようなクラシックな反戦映画にある種の「悲劇の美しさ」があるとしたら、『Warfare』にあるのは「ただただ不快で、痛々しい現実」です。 美談にすることを拒否し、あえて「見づらい、居心地の悪い」体験を突きつける。

そしてエンドロール。 そこで映し出される、モデルとなった実在の兵士たちの写真(多くはモザイクがかかっていましたが)。 フィクションの幕が下り、現実へと引き戻されるあの瞬間。「これは映画の中だけの話ではない」という事実が重くのしかかります。 彼らが実際にそこにいて、この地獄を見てきたという裏付け。それが、どんな言葉よりも雄弁に戦争の愚かさを物語っていました。

『ウォーフェア 戦地最前線』。 決して「楽しい」映画ではありません。見終わった後、どっと疲れが出ます。 ですが、これは劇場で目撃しないと、絶対に後悔する映画です。 今、この世界で起きていることを「他人事」で済ませないためにも、ぜひその身で、この95分間の“戦場”を体験してみてください。

  • IMDb『ウォーフェア 戦地最前線』
    キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。
  • この記事を書いた人

HAL8000

映画と猫をこよなく愛するブロガー。 多いときは年間300本以上の映画を観ていて、ジャンル問わず洋画・邦画・アニメ・ドキュメンタリーまで幅広く楽しんでいます。

専門的な批評はできませんが、ゆるっとした感想を気ままに書くスタンス。 ブリティッシュショートヘア×ミヌエットの愛猫ハルも自慢したいポイントで、レビューの合間に猫写真や日常もたまに紹介しています。

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