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【ネタバレあり】痛快逆襲がたまらない!タランティーノ『デス・プルーフ』徹底レビュー

映画『デス・プルーフ in グラインドハウス』基本データ

  • タイトル:『デス・プルーフ in グラインドハウス』
  • 公開年:2007年(日本公開も同年)
  • 監督:クエンティン・タランティーノ
  • 出演
    • カート・ラッセル(スタントマン・マイク・マッケイ)
    • ヴァネッサ・フェルリト(アーリーン)
    • ロザリオ・ドーソン(アバナシー) など
  • 上映時間:113分
  • 視聴方法:DVD/Blu-ray、各種配信サービスなど

この記事でわかること

  • タランティーノ式“グラインドハウス”再現の魅力
  • 二部構成が生む絶妙なテンポとカタルシス
  • スタントウーマン・ゾーイが魅せる“本物”のカーアクション
  • 女性キャラクターの逆襲劇と、さりげない伏線の回収
  • フェミニズム的視点とタランティーノ監督の“倒錯”要素

はじめに

こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。今回はクエンティン・タランティーノ監督が“1970年代のB級映画館(グラインドハウス)文化”を再現しようと挑んだ『デス・プルーフ in グラインドハウス』をご紹介します。本作はロバート・ロドリゲス監督の『プラネット・テラー』と合わせて、あえて2本立て興行を行う――いわゆる“グラインドハウス”形式で製作された実験的企画の一本です。

タランティーノといえば『パルプ・フィクション』『キル・ビル』など、独創的な会話劇や過剰な暴力描写で映画ファンを魅了してきましたが、本作はその彼の映画オタク魂がさらにむき出しになった、ある意味“尖った”作品でもあります。興行的には成功とはいかなかったものの、現在では「カルト的な人気を誇る隠れた名作」として再評価されることもしばしば。

実は筆者自身も、本作を観るたびに「タランティーノ節」全開の会話や、CGに頼らない生身のカーアクションに圧倒され、“やっぱり面白い!”と元気をもらっています。もしかすると、「私のベスト10、いやベスト5に入るかも……!」と思うほどお気に入りの1本です。この記事では、あらすじから作品の魅力、またフェミニズム的読解まで、少し長めに語っていきますので、お付き合いください。


あらすじ

物語の舞台はテキサスの片田舎。バーで夜を楽しむ若い女性グループが、スタントマン上がりの男・マイク(カート・ラッセル)と出会います。前半は、女性たちの「いかにもガールズトーク」なシーンが延々続き、タランティーノ特有の雑談だらけの作風が全開。「いつ本編が始まるの?」と思うほど、物語の進みは緩やかです。

ところが物語が動き始めると一気に加速。マイクが乗る改造車「デス・プルーフ(耐死仕様)」を使った“殺人カーアクション”によって、女性たちは悲惨な目に遭います。その後、視点は新たな女性グループへ移行。スタントウーマンのゾーイ(ゾーイ・ベル)を含む4人が、休暇中に70年型ダッジ・チャレンジャーを見に行くエピソードが展開します。

レバノン郊外に売りに出されていたその車は、かの有名な『バニシング・ポイント』へのオマージュとしても登場。この車で「映画のスタントを再現して」遊び始める女性たち。しかし、再び姿を現したマイクが彼女たちを狙ってきたことで、再度危機に見舞われるかと思いきや――立場が逆転し、女性側の大反撃が始まるのです。

BDはもちろんのこと、アナログレコードまで持っているくらい好きな作品です!

作品の魅力

グラインドハウス映画へのオマージュ

そもそもこの映画は、“グラインドハウス”という昔ながらのB級映画館スタイルを蘇らせる企画の一環。2本立ての上映や、フィルムの雑な編集、さらには画面にわざと入れた傷や色むらなど、70年代の“安っぽさ”をとことん再現しているのが特徴です。いかにもタランティーノ監督らしい“こだわり”ですよね。

しかし彼は単なる模倣で終わらず、そこに自分の“オタク美学”を融合させ、「理想化されたB級映画」としてアップデートしてみせました。たとえばグラインドハウス映画特有の過激な暴力描写はそのままに、長尺でのガールズトークや“足フェチ”カメラワークといったタランティーノ流演出が散りばめられているのが特徴です。観る人を選ぶとも言えますが、ハマる人にはたまらない世界観でしょう。

二部構成で変化するテンポとカタルシス

本作は、明確に前半と後半で構成が分かれています。前半は長い会話パートから一転して衝撃的なクラッシュシーンへと突入し、女性たちが一方的に悲惨な目に遭う展開。一方、後半では「同じように狙われる女性たちが、今度はやられっぱなしではない」という逆転劇が描かれます。

  • 前半:マチズモ(男の暴力優位)が炸裂
  • 後半:女性の逆襲(フェミニズム的とも言える反撃劇)

後半のカーアクションで、最初は“追う側”だったはずのマイクが、気づけば女性たちに追い詰められて「痛い痛い! なんでこんな目に遭うんだ!」と情けない声を上げるシーンは必見。逆に女性たちは、「お前のケツを掘りたいんだよ!」なんて過激なセリフとともに攻めまくるので、ホラー/スリラーのドキドキ感に加えて思わず吹き出してしまうような笑いも巻き起こります。

スタントウーマン・ゾーイのリアルアクション

後半の見せ場は、なんと言っても“CGなし”の本物スタント。特にスタントウーマンであるゾーイ・ベルが、実際にボンネット上へ乗ったままダッジ・チャレンジャーを疾走させるシーンは圧巻です。彼女自身は『キル・ビル』シリーズでユマ・サーマンのスタントを担当していた人物。そんな“本職”がカメラ前に立ってガチのカーアクションを披露するのだから迫力満点です。

タランティーノ監督は「デジタルに頼らず、生身の肉体と車で撮りたい」という美学を貫きました。スピード感、危険度、観客のハラハラ感がまるで違います。車の揺れや突き上げ感が手に取るように伝わり、「役者大丈夫!?」と思わず画面にかじりついてしまうほど。こうした“本物”へのこだわりが、70年代カーアクション映画へのリスペクトをさらに強調しているわけです。

細やかな演出で高まる緊張感

タランティーノは「些細に見える演出で、観客の期待感を煽る」のがとても上手です。たとえば後半、女性たちがダッジ・チャレンジャーを走らせる中で挿入される、双眼鏡をのぞき込むマイクのカット。「あ、このあと何か起こるぞ」と思わせるような“予告的ショット”が入るだけで、観客は心の準備を始めます。このあたりは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の終盤、ブラッド・ピット演じるクリフとマンソン・ファミリーがすれ違うだけの場面にも通じる手法です。

また会話劇の中にさらりと出てくる「詩を暗唱すればラップダンスを踊ってあげる」「拳銃を持っている」などの台詞が伏線になっており、きちんと回収される構造もスリリング。だらだらとした会話に聞こえていても、実は無駄なシーンが少ないのです。そうした“タランティーノ流の仕掛け”に気づくたび、ファンとしてはニヤリとさせられます。

フェミニズムか、それとも監督自身の倒錯か

本作の解釈として面白いのは、後半の「女性たちの逆襲」がフェミニズム的勝利としても読める点です。前半で男性優位の暴力を見せつけられた観客が、最後に女性陣が“くそ親父”スタントマンマイクを容赦なく叩きのめす展開に胸のすく思いを覚える――これは痛快な“勧善懲悪もの”と捉えられます。

とはいえ、タランティーノ自身がしばしば指摘される「女性の足フェチ」や「残酷描写好き」の要素を濃厚に盛り込み、自分の分身のような映画オタク男(=マイク)を女性たちにボコボコにさせるという構図は“監督の倒錯した自己投影”にも見えるところ。つまり、女性勝利のカタルシスと同時に、タランティーノの自虐的ファンタジーが同居している――そんな複雑な読みも可能です。

いずれにせよ、ラストの逆転劇は観客が心から「やったれ!」と盛り上がるポイントであり、誰もが彼女たちを応援してしまうでしょう。映画を観終わったあとの爽快感は、タランティーノ作品の中でも群を抜いているかもしれません。


まとめ

『デス・プルーフ in グラインドハウス』は、タランティーノの映画オタク精神が最もむき出しになっている作品の一つといえます。グラインドハウス映画への敬意と、自身の偏愛やフェチズム、まで混ぜ込んだ内容は、決して万人受けするとは言い難いかもしれません。

しかし、CGなしの壮絶なカーアクションや、会話劇が生むユーモア、女性たちの大逆転劇による胸のすくカタルシスなど、「タランティーノ作品ならではの魅力」がこれでもかと詰め込まれているのも事実。
観終わったあと「なんだか元気が湧いてきた」「自然と笑顔になった」という感想を持つ方も多いのではないでしょうか。
映画が好きな人、特に“70年代B級映画”や“カーアクション”に目がない人、そしてタランティーノ監督の世界観をとことん楽しみたい人には、ぜひ一度観てほしい作品です。

映画の前半は長めの会話シーンが多く、「ちょっと退屈かも…」と感じる方もいるかもしれませんが、そこを乗り越えれば後半のカーチェイスや女性陣の反撃で一気に盛り上がる構成になっています。まさしく“スルメ映画”と言えるでしょう。
もし初見でハマらなくても、2回目・3回目でじわじわクセになる可能性もアリ。是非、タランティーノ流のB級愛を体感してみてください。

  • IMDb『デス・プルーフ in グラインドハウス』
    キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。
  • この記事を書いた人

HAL8000

映画と猫をこよなく愛するブロガー。 多いときは年間300本以上の映画を観ていて、ジャンル問わず洋画・邦画・アニメ・ドキュメンタリーまで幅広く楽しんでいます。

専門的な批評はできませんが、ゆるっとした感想を気ままに書くスタンス。 ブリティッシュショートヘア×ミヌエットの愛猫ハルも自慢したいポイントで、レビューの合間に猫写真や日常もたまに紹介しています。

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