映画『動物界』基本データ
- タイトル:『動物界』
- 公開年:2023年(フランス)、2024年(日本)
- 監督:トマ・カイエ
- 主演:
- ロマン・デュリス(フランソワ役)
- ポール・キルシェ(エミール役)
- アデル・エグザルホプロス(ジュリア役) など
- 上映時間:128分
- 主な受賞・映画祭出品:
- 2023年度セザール賞で最多12部門ノミネート など
- 視聴方法:
- 記事執筆時点(2025/3/5)では、主要な配信プラットフォームでの取り扱いはまだありません。
もし新しい情報が入り次第、この記事にも追記していきますので、ぜひブックマークしてお待ちくださいね。
- 記事執筆時点(2025/3/5)では、主要な配信プラットフォームでの取り扱いはまだありません。
この記事でわかること
- フランス映画『動物界』の基本的なあらすじ
- 突然変異で“人間が動物化”する世界観のテーマとメッセージ
- 映像美や特殊メイクの見どころ
- 主演俳優の熱演がもたらす感動ポイント
- 個人的な感想を通して感じた“この映画の面白さ”
はじめに
こんにちは。当ブログ「ねことシネマ」にお越しいただきありがとうございます。
今日は「JAIHO」という配信サービスで韓国の短編映画『ドア前に置いて。ベル押すな』を観たり、ディズニー+でちょうど配信が始まった『デアデビル:ボーン・アゲイン』を1話だけ視聴したりしていたのですが、何か深掘りして語れるほどの内容でもなく……。それでも何か語りたい気持ちはあるぞ、ということで、昨年観たフランス映画『動物界(Le Règne animal)』を改めて思い出してみました。
「フランス映画はちょっと敷居が高いかな?」なんてイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。私自身、ヌーヴェルバーグ系の作風がどうにも苦手だった時期があります。でも、この『動物界』はエンターテインメントとしても十分楽しめる作品ですし、思いがけない感動を味わえる不思議な一本なんです。
今回はそんな『動物界』のあらすじや見どころをライトにまとめつつ、私の個人的な感想も交えながらご紹介します。もし配信が始まったらぜひチェックしてみてくださいね。
あらすじ
舞台は近未来のフランス。原因不明の奇病によって、人間の身体が動物のように変異していく「新生物」化が各地で発生していました。主人公のフランソワ(ロマン・デュリス)は、変異の症状が進みはじめた妻ラナを救うため、16歳の息子エミール(ポール・キルシェ)とともに療養施設へ向かいます。ところが移送中の事故によってラナは行方不明になってしまい、フランソワとエミールは彼女を捜すべく森を旅することに。
森の奥では、完全に動物の姿へと近づいた「新生物」たちが姿を消しており、人間たちは彼らを隔離・排除しようと動きます。そんな中、エミール自身にも動物化の症状が現れはじめ……。親子の葛藤と愛情が交錯する、どこか切なくも詩的な物語です。

ストーリーのテーマと見どころ
『動物界』の大きな特徴は、「人が動物化してしまう」という突飛な設定をあえて深く説明しないところにあります。なぜそんな突然変異が起きたのか、どういうメカニズムなのか――普通は気になる部分ですが、映画ではそこをほとんど掘り下げません。
しかし、実際に観てみると、この“潔さ”が逆に作品を魅力的にしています。動物化という現象自体はインパクト抜群なのですが、監督が本当に描きたいのは「家族や大切な人が変貌してしまったらどう向き合うのか」という普遍的なテーマだからです。そこに注力することで、父親と息子のドラマとしての軸がぶれず、観客は“変異”をめぐる社会的問題を自分の人生にも置き換えて考えることができます。
また、この「異形への偏見と排除」は現実世界の感染症やマイノリティ差別を連想させますし、エミールという思春期の若者が苦しむ様子には、青春期の身体・心の変化とも重なる含意が見え隠れします。こうした多層的な解釈を誘うところが、本作の最大の見どころだと思います。
演出と映像美
監督のトマ・カイエは、リアリズムとファンタジーの境界を行き来する独特の演出で高く評価されています。物語の序盤は「見せすぎない」演出が際立ち、待合室にちらりと写る長い舌の患者や、ヴェール越しに見える妻ラナの瞳など、不穏なムードをじわじわ煽るのが巧みです。
やがて森に放たれた「新生物」たちの全貌が明かされると、特殊メイクやアニマトロニクスによる造形美が印象に残ります。左右非対称に歪んだ動物的パーツが生々しくも美しく、「このクリーチャーがもし家族だったら」と思うと、不思議な感情が湧き上がってくるはずです。
映像面では深い森の緑や水辺の風景が詩情豊かに映し出され、変異する人間たちと自然の風景が溶け合うように撮られています。実際、フランスのセザール賞では撮影賞や視覚効果賞などを多数受賞しており、細部まで作り込まれた世界観が高く評価されています。
俳優の演技
主人公フランソワを演じるロマン・デュリスは、変容していく妻への愛情と戸惑い、そして息子への献身を繊細に表現し、非現実的な設定をどこかリアルに感じさせてくれます。一方、エミール役の若手俳優ポール・キルシェは、身体が変わっていく恐怖と「新しい自分」を受け入れる過程を見事に演じきり、セザール賞の新人男優賞にノミネートされました。
また、フランソワたちに協力する女性警官を演じるアデル・エグザルホプロスが存在感を放ち、クリーチャー化した「新生物」を演じる役者陣も、特殊メイクの下で苦悩や葛藤を熱演しており、観る者に強い説得力を与えます。
ジャンルと影響
『動物界』は一言では分類し難い作品です。SFのようでもあり、異形ホラー的な要素があり、かつロードムービーとしての味わいもあります。批評家の中には、カナダのデヴィッド・クローネンバーグが得意とする“ボディホラー”に通じる変身描写を指摘する声も。
しかし単なるホラーやパニック映画にとどまらず、フランス映画ならではの詩情と社会的テーマが折り重なり、結果として「父子の愛」を貫くヒューマンドラマになっています。この多層的なアプローチが、カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門のオープニングを飾り、セザール賞でも軒並みノミネート・受賞を果たす原動力になったのでしょう。

個人的に印象に残ったポイント
ここから少しだけ個人的な感想を混ぜます。具体的な結末には触れませんが、念のため軽くネタバレ要素があるかもしれませんので、お気をつけください。
- 設定の潔さ
動物化の原因や仕組みを深く掘り下げないのがむしろいいんです。「え、そこ説明しないの!?」って思うかもしれませんが、逆に物語の核である“愛する人との絆”に集中できるので、最後までぐいぐい引き込まれます。 - エミールの変化に共感
私は思春期の揺らぎや、ある日突然「自分は少し違うかも」と気づくような経験に重なる部分があると思いました。実際、性的マイノリティやその他のマイノリティと重ねる見方もできるでしょう。エミールが自分の変化を必死で隠すシーンは胸が痛くなります。 - 飛翔シーンでの涙
森の奥で“鳥男”が飛ぶ場面は意外なほど美しくて、私は思わず泣いてしまいました。ホラーっぽい気配が強いのに、あのシーンだけは解放感があって……不思議と感情を揺さぶられるんですよね。 - ラストの“愛ゆえの選択”
ネタバレは避けますが、フランソワが最終的に下す決断には人間の優しさが凝縮されていて、私は号泣しました。家族を想う気持ち、その人をありのまま受け入れようとする強さが胸に染み渡ります。 - フランス映画の幅広さ
正直、フランス映画=ヌーヴェルバーグ的な会話劇、という勝手なイメージを持っていた自分にとって、この作品は良い意味で裏切ってくれました。ジャンルを越境する作風は「まだ見ぬ面白いフランス映画」が他にもたくさんあるんだろうなと思わせてくれます。
まとめ・おわりに
昨年映画館で観たきりですが、今でも心に残っているほどインパクトの強い作品、それがこの『動物界』です。驚きの設定や特殊メイクの面白さはもちろん、家族の絆や自分が“異質”になってしまった時の孤独感など、人間ドラマとしても深い味わいがあります。
現時点では大きな配信プラットフォームでの公開が始まっていないようですが、今後もし配信がスタートすればぜひチェックしてみてください。観終わったあとは「あなたはどう思った?」と、周りの方と語り合ってほしい映画です。
最後までお読みいただきありがとうございました。当ブログ「ねことシネマ」では、映画にまつわる話や、わが家の猫(ハル)の日常も気ままに綴っています。今回は猫の出番が控えめでしたが、次はハルとの映画鑑賞(?)エピソードもお届けできればと思っています。よろしければコメントもお待ちしています。
では、また次回の記事でお会いしましょう。
- IMDb『Le règne animal』
キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。