映画『エミリア・ペレス』基本データ
- タイトル:『エミリア・ペレス』
- 公開年:2024年(フランスほか)、2025年(日本)
- 監督:ジャック・オーディアール
- 出演:
- カルラ・ソフィア・ガスコン(エミリア/マニタス)
- ゾーイ・サルダナ(リタ)
- セレーナ・ゴメス(ジェシー) ほか
- 上映時間:133分
- 主な受賞・映画祭出品:
- 第97回アカデミー賞(2025年)で12部門ノミネート 助演女優賞・主題歌賞を受賞 など
- 視聴方法:全国劇場にて公開中
この記事でわかること
- 作品のあらすじと物語の見どころ
- クライム・ミュージカルという独特の演出スタイル
- トランスジェンダー俳優の熱演とアカデミー賞評価
- “生まれ変わる”ことの意義と重層的なテーマ
- どんな人にオススメか
はじめに
こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。今回は、フランスの名匠ジャック・オーディアール監督が手がけ、アカデミー賞で非英語圏作品としては異例の12部門13ノミネートを果たした話題作『エミリア・ペレス』をご紹介します。助演女優賞(ゾーイ・サルダナ)と主題歌賞も受賞した注目の一本です。
麻薬カルテルのボスが“女性として再スタート”するなんて、予告段階からインパクト抜群ですよね。私は公開初日にいてもたってもいられず劇場へ。結果は大成功! 想像以上のパワーと独創性に圧倒されて、2時間13分があっという間でした。
本記事では、ネタバレを最小限に抑えつつ、作品のあらすじや魅力、そして私が観て感じた“生まれ変わること”の問いかけなどを中心にお伝えします。ぜひ最後までお付き合いください。
あらすじ
物語の舞台はメキシコシティ。弁護士のリタが、麻薬カルテルのボスであるマニタスから奇妙な依頼を受けたことから全てが始まります。それは「自分を女性として新しい人生に導いてほしい」というもの。人目を欺くため、リタは性別適合手術や身分証の偽造、財産管理など、あらゆるサポート体制を整え、多額の報酬を手にする計画を立案します。
やがてマニタスは手術を受けて過去を捨て、“エミリア・ペレス”という名の女性として生き始めました。妻や子どもがいた男性時代の自分を「なかったこと」にし、ほぼ完璧な形で国外へと姿を消したのです。ところが数年後、イギリスで平穏に暮らしていたリタの前に、突然エミリアが現れます。それを機に再び物語が動き出し、エミリアの元家族や新たな人間関係、さらには過去の犯罪をめぐる“贖罪”が絡み合い、新しい人生をめざす道筋が少しずつ揺らぎ始めます。

COPYRIGHT PHOTO : (C)Shanna Besson
作品の魅力
クライム・ミュージカルという新感覚
ドロドロの麻薬カルテル劇に、トランスジェンダーの物語、さらにミュージカルまでブレンドした本作は、まさに異色中の異色。普通なら「こんな重たいテーマに歌と踊り?」と疑問がわきますが、実際はキャラクターの感情を生々しく浮き彫りにしてくれる重要な演出になっています。
ときにシュールレアリスム的な映像世界が広がり、観客は「これは現実なのか? 主人公の心象風景なのか?」と戸惑いつつも、独特の説得力で作品に引き込まれます。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のように、主人公が見ている“夢”のような感覚で歌とダンスが展開する――その不思議な浮遊感こそが、『エミリア・ペレス』ならではの世界観を支えているように感じました。
トランスジェンダー俳優の熱演
主人公エミリアを演じるカルラ・ソフィア・ガスコンは、実際にトランスジェンダーを公表している俳優であり、本作の大きな見どころです。男性時代のボス、マニタスとしての冷徹で威圧感ある佇まいと、女性として再誕したあとの繊細かつ情熱的なエミリア――この一人二役をまったく違和感なく演じ分け、カンヌでは女優賞を受賞しました。
また助演女優賞に輝いたゾーイ・サルダナ(弁護士・リタ役)は、怒りや葛藤を体当たりで表現し、劇中のミュージカルナンバーでも力強いダンスと歌声を披露。彼女がステージさながらに“富裕層の偽善”を批判するナンバーは、本編随一のショーストップです。さらにセレーナ・ゴメスが演じる若い妻ジェシーが見せる“やんちゃな未亡人”ぶりも痛快で、それぞれが強烈な個性でぶつかり合うアンサンブルは必見の魅力となっています。
“過去を捨てる”ことの葛藤と贖罪
本作では、ボス時代に関与した犯罪や被害者の行方不明問題など、社会的に重いテーマが背景に潜んでいます。エミリアは「自分はもう別人」と言い張りながらも、行方不明者捜索の団体を立ち上げようとするなど、過去の加害性をどこかで意識しているように映ります。
「自分の過去を、本当にリセットできるのか?」と考えさせられるのもポイント。新しい人生を手に入れたはずのエミリアが、逆に葛藤や罪悪感に追いつめられていく展開は見応えたっぷりです。
破綻しそうで破綻しない不思議な完成度
本作は「こんな要素をいっぺんに詰め込んで大丈夫?」と観る前に疑問を抱くほど、ジャンル的にもテーマ的にも“欲張り”な作品です。ところが観てみると、妙にバランスが取れていて飽きる暇がありません。
華麗なダンスシーン、心理的な緊張感、コミカルな瞬間、そして犯罪映画らしい緊迫感が次々と入り乱れつつも、最後までテンポよく進行します。結末も「そこに着地するのか」という意外性があり、見終わった後は「奇想天外なんだけど、何だか満足感がある」と感じさせる不思議な余韻を残します。確かに現実味よりも寓話性に重きを置いているため、メキシコの社会問題を正確に描いているわけではありませんが、“荒唐無稽”を突き抜けた先にある普遍的なメッセージ(生き直しや贖罪など)をしっかりと届けてくれます。

COPYRIGHT PHOTO : (C)Shanna Besson
まとめ
ミュージカル映画と聞くと、派手なショーアップや華々しい合唱シーンをイメージしがちですが、『エミリア・ペレス』はまったく新しいアプローチを見せてくれます。麻薬カルテルのボスが“トランス女性”として再生を求めるというセンセーショナルな物語を、ミュージカル形式というファンタジックな手段で描くことで、重いテーマにもかかわらず不思議な軽やかさが生まれているのです。
2時間13分とは思えないほどテンポが良く、キャスト陣のパフォーマンスも素晴らしいです。アカデミー賞最多ノミネートもうなずける完成度で、「これに似た作品はそうそうない」と断言したくなる、貴重な映画体験でした。
当ブログ『ねことシネマ』では、今後もユニークな映画をどんどんご紹介していきたいと思います。ぜひコメントで皆さんの感想をお聞かせください。『エミリア・ペレス』は現在公開中。あまり前情報を詰め込みすぎず、ぜひ劇場で体験していただければと思います。
- IMDb『エミリア・ペレス』
キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。