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【ネタバレなし】「猿」に込められた苦悩と再生――『グレイテスト・ショーマン』監督が描くロビー・ウィリアムズの半自伝映画『ベター・マン』レビュー

映画『BETTER MAN ベター・マン』基本データ

  • タイトル:『BETTER MAN ベター・マン』
  • 公開年:2025年(日本)、2024年(米国など)
  • 監督:マイケル・グレイシー
  • 出演:
    • ロビー・ウィリアムズ(ナレーター・ヴォーカル)
    • ジョノ・デイヴィス(モーションキャプチャー演技)
    • スティーブ・ペンバートン(ピーター)
    • アリソン・ステッドマン(ベティ) など
  • 上映時間:137分
  • レーティング:PG12(12歳未満は保護者同伴推奨)
  • 主な受賞歴:
    • 第97回アカデミー賞(2025年)で視覚効果賞ノミネート など
  • 視聴方法:全国劇場で公開中

この記事でわかること

  • イギリスのポップスター、ロビー・ウィリアムズを“猿”で描く理由
  • 『グレイテスト・ショーマン』との比較ポイント
  • ドラマ重視の暗めミュージカル要素とPG12指定の背景
  • 子ども連れ鑑賞で注意すべき点
  • 本作のあらすじと魅力、そして“観てみる価値”のまとめ

はじめに

こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。今回は、『グレイテスト・ショーマン』で一躍脚光を浴びたマイケル・グレイシー監督の最新作『Better Man/ベター・マン』を取り上げます。実はこの日、午前中に『ベター・マン』を観て、午後には『ミッキー 17』を観るというハードスケジュール! でも、どちらもじっくり堪能できたんです。

『グレイテスト・ショーマン』は、誰もがハッピーになれる華やかなミュージカル映画というイメージが強いですよね。しかし本作『ベター・マン』は、同じ監督が手がけていながらも雰囲気がかなり異なります。イギリスのポップスター、ロビー・ウィリアムズの半自伝的ストーリーを、なんとチンパンジー(猿)の姿で描くという奇抜なコンセプト。そこには薬物やアルコール依存など生々しい苦悩があり、想像以上に重めのドラマ展開が待っています。

「ロビー・ウィリアムズって誰?」と思う方も多いかもしれません。日本ではそれほど知られておらず、曲を聴いたことがない方も多いでしょう。それでも本作は、スター伝記映画の域を超えるほど独創的なアイデアが詰まっています。今回はあらすじ、作品の魅力、そして鑑賞時の注意点までを含めレビューしていきます。ご興味が湧いた方は、ぜひ劇場でその不思議な世界観を体感してみてください。


あらすじ

主人公はイギリス北部のストーク=オン=トレント出身、ロビー・ウィリアムズ。幼いころ両親が離婚し、祖母ベティに育てられながら音楽の才能を開花させます。10代の終わりに参加したボーイズグループ「テイク・ザット」で一躍スターダムに駆け上がり、その後ソロデビューを果たすと瞬く間に英国ポップス界のトップスターへ。しかし、まばゆいばかりの成功にはいつも“孤独”と“自己嫌悪”がつきまといます。

本作が大きく話題を呼んでいるのは、ロビー自身をCGチンパンジーとして描いている点。監督とロビー本人の取材を通じて浮かび上がったのは、「自分はまだ進化しきれていない。猿みたいだ」というロビーの強い自己イメージ。その発想から、ロビーだけをCGのチンパンジーにするという大胆な決断に至ったそうです。周囲が全員“人間”なのに、彼だけが猿というシュールな光景は、薬物依存や不安感といった生々しい苦悩を寓話的に描く効果があります。

さらに、ストーリーは“転落”の部分にもかなりの比重が割かれています。ドラッグやアルコールに溺れ、自分でも自分をコントロールできなくなるロビー。そして、かつて「テイク・ザット」のファンだった人々を失望させる言動を繰り返し、一人きりになっていく…。しかし終盤には自己をもう一度見つめ直す瞬間が訪れ、エンディングでは大勢の観客を前に復活を印象づけるクライマックスが用意されています。王道の「成功→堕落→再起」という伝記映画の流れを踏襲しつつも、主人公が“猿”であることが最後の大きな仕掛けへとつながっていくのです。

(C)2024 PARAMOUNT PICTURES. All rights reserved.

作品の魅力

猿で表現することで生まれる客観性

普通の伝記映画なら俳優が本人役を演じるところを、あえてCG猿にすることで、ロビー・ウィリアムズという実在スターを見つめ直す一種のフィルターがかかっています。薬物やアルコール依存、恋人とのいざこざや周囲への八つ当たりなど、いわゆる“負のエピソード”も遠慮なく映し出されますが、「猿だからこそ」生々しい嫌悪感が和らぐ一方、むしろ一層印象的に映るんです。私自身も観ながら「やっぱり実写俳優では味わえない不思議な距離感だな…」と感じました。ロビーを美化も糾弾もせず、絶妙なバランスを保っているのがこの作品の大きな強みですね。

『グレイテスト・ショーマン』ほどの派手さはない

マイケル・グレイシー監督といえば、鮮やかなミュージカル演出で知られる方ですが、本作ではそこまでド派手なショーアップは期待しないほうがいいかもしれません。もちろん音楽シーンは随所にあり、ロビー・ウィリアムズのヒット曲やテイク・ザット時代のナンバーが鳴り響くライブシーンはテンションが上がります。ただ、『グレイテスト・ショーマン』のように「誰でもハッピーに!」といった祝祭感が前面に出るわけではなく、どちらかというと『ロケットマン』(エルトン・ジョンの伝記映画)のように暗部もしっかり取り込んだ“内省的なミュージカル作品”という印象。ファンシーなエンタメを期待すると、肩透かしを食うかもしれません。

PG12指定と子ども連れ鑑賞での注意

上映時間は137分とそこそこ長く、しかもすべてが字幕版での上映。さらに薬物やアルコール依存などシリアスな題材を扱うため、小さなお子さんにはややハードルが高い内容といえます。私が観た回でも、5歳くらいのお子さんを連れた親子が途中退席して、そのまま戻ってこない場面がありました。PG12指定なので保護者の同伴は必要ですが、薬物依存など重めのテーマをしっかり描いているぶん、「気軽なミュージカル映画」と思って行くと親子ともども疲れてしまう可能性があります。

暗さと再生をしっかり描く伝記映画らしいカタルシス

ストーリー構成自体は「栄光→堕落→自己崩壊→復活」という伝記映画の定石に沿っているため、ある意味安心感があります。挫折部分はかなり重めですが、最後にはきちんと再起の瞬間があり、大音響のライブシーンが感動を高めてくれるつくり。終盤、チンパンジーであるロビーが“自分自身を取り戻す”かのようなシーンがあり、それまで長く暗いトンネルを走ってきただけに、エンディングではしっかりとカタルシスが生まれます。

日本での知名度と興行面

ロビー・ウィリアムズは母国イギリスやオーストラリアでは国民的スターですが、日本ではクイーンやボブ・ディランほどの認知度はありません。したがって「ロビーの曲をよく知らないし…」という方も多いでしょうし、実際に本作も海外ほど興行的には成功していないようです。ただ、逆に言えば「猿のビジュアルが気になった」という理由でも十分楽しめる不思議な作品。ロビーが紡いできたヒット曲に触れられるいい機会でもありますし、ミュージカル好きならば“斬新な伝記映画”として観る価値が十分あります。

(C)2024 PARAMOUNT PICTURES. All rights reserved.

まとめ

『ベター・マン』は、世界的ポップスターの人生をあえて猿の姿で描くという挑戦的なミュージカル映画です。薬物やアルコール依存などの暗いテーマをしっかり掘り下げる一方で、ミュージカル仕立てならではのライブ演出やファンタジックなシーンがアクセントとなり、2時間超の上映時間に飽きさせない仕掛けが詰め込まれています。

とはいえ、『グレイテスト・ショーマン』のような明るくポップな観やすいエンタメを期待するとギャップがあるかもしれません。実際はロビーの“痛み”にフォーカスした内面重視の作りです。PG12指定の通り、小さなお子さんには少し重いかもしれません。でも、音楽や伝記映画が好きな大人にとっては、観る価値十分の一本だと感じました。

日本の一般認知度が高いとは言い難いロビー・ウィリアムズですが、彼の楽曲を知らなくても問題なく理解できる脚本になっています。むしろ「名前も曲も知らないが、興味がわいてきた」という方にこそ、劇場での大音響・大スクリーンで体感していただきたい一本です。奇抜なアイデアと重厚なドラマの融合が“観たことのないタイプの伝記ミュージカル”を生み出していると感じました。

いかがでしょうか? 当ブログ『ねことシネマ』としては、「この猿はただのギミックじゃないの?」と半信半疑だったのが、観終わると“猿で良かった”と納得できる不思議な説得力があった作品だと評価しています。皆さんも気になる方はぜひ劇場へ足を運び、ご自身なりの感想を持ち帰ってみてください。ロビー・ウィリアムズがどんな思いで“猿”を選んだのか、その答えがきっと見つかるはずです。

コメントもお待ちしています。「観てきました!」という感想などシェアしていただけると嬉しいです。では、また次回のレビューでお会いしましょう。いつも当ブログを応援してくださり、ありがとうございます!

  • IMDb『BETTER MAN ベター・マン』
    キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。

  • この記事を書いた人

HAL8000

映画と猫をこよなく愛するブロガー。 多いときは年間300本以上の映画を観ていて、ジャンル問わず洋画・邦画・アニメ・ドキュメンタリーまで幅広く楽しんでいます。

専門的な批評はできませんが、ゆるっとした感想を気ままに書くスタンス。 ブリティッシュショートヘア×ミヌエットの愛猫ハルも自慢したいポイントで、レビューの合間に猫写真や日常もたまに紹介しています。

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