映画『逃走迷路』基本データ
- タイトル:『逃走迷路』
- 公開年:1942年(米国)、1979年(日本)
- 監督:アルフレッド・ヒッチコック
- 出演:
- ロバート・カミングス(バリー・ケイン)
- プリシラ・レイン(パット) ほか
- 上映時間:108分
- 視聴方法:BD・DVD、各動画配信サイトで配信中
この記事でわかること
- 戦時下で製作されたヒッチコック映画の背景とプロパガンダ的要素
- 自由の女神像やラジオシティ・ミュージックホールで繰り広げられる印象的な演出
- ヒッチコックらしい“巻き込まれ型サスペンス”の面白さ
- モノクロ映画でも没入できるテンポの良さ
- 当時と今とで変わる評価・見どころのポイント
はじめに
こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。今回は、アルフレッド・ヒッチコック監督の1942年作『逃走迷路』をご紹介します。戦時下のアメリカで愛国心を鼓舞するかのような作風を感じさせながらも、しっかりとしたサスペンス演出が光る逸品。ヒッチコックの代表作ほど有名ではないかもしれませんが、実は4Kレストアのボックスセットに収録されていたりするなど、今でも根強い人気があります。
実は私、ヒッチコックの代表作『サイコ』や『北北西に進路を取れ』『裏窓』なども見直そうと思っているのですが、これらは未開封の4K版Blu-rayボックスセットを手元に置いたままでした。「どうせならディスクで観たい!」という気持ちが強く、つい先延ばしにしてしまっていたんです。
そんな中、何気なくU-NEXTを眺めていたところ、この『逃走迷路』を発見。ちょうど未見の作品だったうえ、上映時間は約108分とコンパクト。「気軽に始められそう」と思い、チェックしてみたら大正解でした。テンポも良く、飽きずに最後まで楽しめる“良作”だと感じました。
この記事では、そんな『逃走迷路』のあらすじや見どころを中心に、当時の社会背景やプロパガンダ的な要素も含めて、当ブログらしい視点でライトに解説していきます。どうぞ最後までお付き合いください。
あらすじ
第二次世界大戦中のアメリカ。カリフォルニアの航空機工場で起きた大規模火災がきっかけで、従業員の一人が命を落とします。
同僚のバリー・ケイン(ロバート・カミングス)は、火災時に渡された消火器に実はガソリンが入っていたことを疑われ、濡れ衣を着せられてしまうのです。警察にも追われる身となったバリーは、消火器を手渡した謎の男フライ(ノーマン・ロイド)が事件の真相を握っていると考え、フライの行方を追うことに。
ところが行く先々で、新たな陰謀や“サボタージュ集団”の動きがちらつき、バリーは何度も危機に陥ります。自分の無実を証明しようにも、信用してくれる人は少なく、行動を共にするパトリシア(プリシラ・レーン)も、当初はバリーを怪しむばかり。
それでもフライの正体や背後にいる黒幕を突き止めていくうち、事態は国家を揺るがしかねない大陰謀に発展していきます。そして、ニューヨークの自由の女神像を舞台にしたスリリングなクライマックスへ――。テンポの良い逃亡劇を存分に味わいつつ、ヒッチコックらしいサスペンス演出が凝縮された作品です。

作品の魅力
「巻き込まれ型」サスペンスの面白さ
ヒッチコック作品ではおなじみの「主人公が不本意に事件へ巻き込まれる」スタイルが本作の肝です。
バリー・ケインは、ごく普通の工場勤務青年で、いきなり濡れ衣を着せられてしまいます。観客は冒頭から“真犯人フライの存在”を知っているだけに、バリーがどのように反撃へ転じるのか、ヒヤヒヤ&ワクワクしながら鑑賞できるわけですね。
実際のところ、本作にはヒッチコックの別作品『北北西に進路を取れ』などと共通する要素が盛り沢山です。たとえば、“逃亡しながら真相究明”“ヒロインと手錠でつながる”など、ファンなら「あ、ヒッチコック節だ」と思わずニヤリとする場面があちこちに散りばめられています。
今回初めて『逃走迷路』を観た私も、「この設定、あの作品とちょっと似てるかも」なんて感想を抱きつつ、すっかり没入してしまいました。
自由の女神像でのクライマックスシーン
映画の最大の山場が、自由の女神像を舞台に繰り広げられる攻防。実際には合成とセットを駆使しているとはいえ、高さ350フィートを思わせる映像は、今観ても手に汗握るほどの迫力です。
「自由の女神が印象的な映画といえば、真っ先に『猿の惑星』を思い浮かべる」という方も多いかもしれませんが、今回『逃走迷路』を観たことで、私のなかでは“自由の女神映画”の代表格がガラッと更新されてしまいました。あえてモノクロで演出されるスリルが生々しく、ヒッチコックらしいサスペンスの緊張感を凝縮した名シーンだと思います。
ラジオシティ・ミュージックホールでの“映画内映画”演出
自由の女神像と並んで印象的なのが、ラジオシティ・ミュージックホールの場面です。映画館のスクリーンで上映中の劇中映画の音と、現実での銃声や追撃が同時に進行する――という、“二重構造”の演出が面白いんですよね。
バスター・キートンの『シャーロック・ジュニア(探偵学入門)』などでも有名な、映画内映画を活用したギミックをサスペンスに応用していて、観ているこちらも「スクリーンの爆音に紛れて現実の発砲が! でも劇場の観客は全然気づかない!」というヒヤヒヤ感を味わえます。
まさに、スクリーンに目を奪われる観客(劇中のモブたち)と、真相を知ってドキドキしている我々(実際の観客)の視点のギャップこそヒッチコック流サスペンスの真骨頂。ここは短いシーンながら、本作の見どころとして押さえておくといいでしょう。
戦時下のプロパガンダと映画の芸術性
1942年といえば、アメリカが真珠湾攻撃を受けてまもなく参戦した時期。映画界にも国策宣伝や愛国心を煽る要素が盛り込まれることは珍しくありませんでした。
『逃走迷路』でも、主人公バリーが「我々正義の人々は決して弱くない、悪に立ち向かう力がある。我々は必ず勝つのだ」と演説をぶつ場面があったり、敵の正体を“ドイツ人スパイ(具体的には明示されない)”と匂わせたりと、当時の観客には非常にキャッチーだったようです。
プロパガンダ映画というと「内容がどうしても時代に縛られる」「今観ると古臭く感じる」という面もありますが、本作に限ってはヒッチコックの娯楽性が勝っていて、今でも新鮮に楽しめる要素が多いと感じました。実際にプロパガンダ要素のある名作に『カサブランカ』(1942)などがありますが、それと同様に「戦時中の熱量を抱えながら、なおかつ娯楽作品として完成度が高い」という印象です。
映画は時として芸術性や娯楽性とプロパガンダが複雑に絡み合いますが、本作はヒッチコックが“真剣勝負”でエンタメを撮ったからこそ、後世でも評価され続けているのではないでしょうか。
私の評価:良作の安定感
本作に関しては、私自身は“傑作”というより“良作”だと感じています。大化けするほどの深みはないかもしれませんが、ヒッチコック初心者でもスッと入っていけるテンポの良さがあり、約108分の時間を飽きずに過ごせるサスペンス映画としては十分なクオリティです。
いわゆる“超メジャーな代表作”には一歩及ばないかもしれませんが、「ヒッチコックの巻き込まれ型サスペンスを手軽に楽しみたい」「自由の女神を舞台にした派手なクライマックスを観てみたい」という方には、間違いなくオススメの一本です。
まとめ
戦時下の背景もあって、愛国心やプロパガンダの要素が色濃く滲む本作。ヒッチコックの代表作とは言いづらいかもしれませんが、実際に観てみると「巻き込まれ型サスペンス」のエッセンスがぎっしり詰まっています。
主人公が無実を証明しながら陰謀を追う構図は、『北北西に進路を取れ』などと共通点が多く、ニューヨークの自由の女神像やラジオシティ・ミュージックホールといった舞台設定も見応えがあります。モノクロの映像が逆にリアルな質感を強調していて、テンポの良さも相まって飽きる暇がありません。
「有名なヒッチコック作品はだいたい見た」という方でも、まだの方でも、ちょっとレアな一本を楽しみたいなら『逃走迷路』はおすすめです。
- IMDb『逃走迷路』
キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。