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【ネタバレなし】ラミ・マレック主演『アマチュア』レビュー:CIA暗号解読官の静かな復讐劇

映画『アマチュア』基本データ

  • タイトル:『アマチュア』
  • 公開年:2025年
  • 監督:ジェームズ・ホーズ
  • 出演
    • ラミ・マレック(チャーリー・ヘラー)
    • レイチェル・ブロズナハン(サラ・ヘラー)
    • カトリーナ・バルフ(インクワライン)
    • ローレンス・フィッシュバーン(ヘンダーソン) など
  • 上映時間:123分
  • 視聴方法
    • 全国劇場で公開中

この記事でわかること

  • CIA暗号解読官が復讐のため“現場”へ踏み込む物語の概要
  • 作品の演出・脚本・演技など“評論的視点”から見た魅力と課題
  • 実際に劇場で鑑賞した個人的な感想(「やや印象が薄い」という理由)
  • スパイ・リベンジ映画好きなら楽しめるポイント

はじめに

こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。今回は、ジェームズ・ホーズ監督のスパイスリラー映画『アマチュア』(2025)をご紹介します。CIA本部に勤める暗号解読官が、愛する妻をテロで失ったことをきっかけに復讐を決意し、“殺し”の世界へ足を踏み入れていく――そんな内容です。

私は公開翌日にIMAXで早速観てきました。実は今週、とくに観たい映画が見つからず、予告編を何度も目にしていた『アマチュア』に興味本位で行ってきました。予告が流れる頻度の多さにうんざりしかけていましたが、スパイ映画自体は嫌いじゃないので、期待と不安が半々という心境でしたね。

結論としては、「極端に悪いわけではないものの、尖った魅力も感じにくい」という印象。“きちんと作られたけれど印象が薄い”タイプのスパイスリラーで、鑑賞後の余韻は正直言ってあまり残りませんでした。しかし、古き良きスパイ映画の香りや、主演ラミ・マレックの“内向的アクションヒーロー像”など、見どころも確かに存在します。この記事では、評論的な視点からの批評と合わせて、私自身が感じた物足りなさについても正直にお伝えしていきたいと思います。


あらすじ

※本記事では、物語の核心部分に触れないよう配慮していますが、少々の内容紹介を含みます。

主人公のチャーリー・ヘラー(ラミ・マレック)は、CIA本部のサイバー捜査官。いわゆる現場での諜報活動は苦手で、もっぱらデスクワークに専念する“頭脳派”の分析官です。ところがある日、ロンドンで起こった無差別テロ事件によって最愛の妻サラ(レイチェル・ブロズナハン)を奪われ、喪失感と怒りに駆られます。

しかし、CIAは“国家としての都合”を優先して動かず、彼の願いを簡単には受け入れません。そこでチャーリーは、CIA内部の不正を暴露できる証拠を巧みに使い、自分を現場要員として訓練させるよう半ば脅迫まがいに迫り、正式に現場入りすることを勝ち取ってしまいます。彼の指導に当たるのはベテラン教官のヘンダーソン大佐(ローレンス・フィッシュバーン)。

「お前に人を殺せるのか?」と挑発されながらも、チャーリーは妻の敵を討つための特殊訓練を受け、本来の専門知識である暗号解読力や頭脳戦を武器に、世界各地のテロリストを単身追い詰めていきます。が、その先に待っていたのは、CIA上層部の腐敗やさらに大きな陰謀の存在でした。果たして“殺しの素人(アマチュア)”である彼が、復讐と正義のはざまで選ぶ結末とは――。

(C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

作品の魅力

ここからは、評論的視点と私自身の感想を織り交ぜながら、本作の魅力(および惜しい点)を探ってみます。

手堅い演出と現代的なアップデート

監督のジェームズ・ホーズは、テレビシリーズ『スロー・ホース』や『ブラック・ミラー』などで培ったサスペンス構築力に定評がある人物です。本作『アマチュア』でも、冒頭から終盤に至るまで緊張感を維持する手腕は見事といえます。

  • 序盤の訓練シーンでは、主人公とヘンダーソン大佐との厳しいやり取りが強い緊張感を生み出し、後半のアクションに向けてじわじわと期待を高めてくれます。
  • アクションでは細かすぎるカット割りを避けているので、観客も状況を追いやすく、没入感を損ねません。

一方で、「驚くほど堅実」という長所が裏返しとなって「もっと型破りに振り切ってほしかった」「予定調和のスリラーに留まった」という声もあります。実際、私自身も鑑賞していて「予想外の展開が少ないな」と感じました。テンポは良く緊張感もあるのに、全体が“王道”すぎて劇的な盛り上がりを欠く部分は否めないところです。

復讐劇としての醍醐味と物足りなさ

脚本面では、主人公の私怨(妻の死)から国家レベルの陰謀へ踏み込んでいく展開が設定されています。しかし、観終わった後に感じたのは「主人公の感情が十分に掘り下げられないまま物語が走り始めてしまった」という点です。

  • 冒頭、妻サラとの穏やかな暮らしが数シーン示されるものの、妻を失った悲嘆や怒りの燃え上がる過程があっさりしていて、共感しきれない。
  • CIA上層部への脅迫まがいの行為から、各地を転々とする追跡劇へと一気に展開し、主人公の苦悩や苦しみはあくまで背景になりがち。

結果として、「復讐」によるカタルシスを十分味わえないまま、作業的にテロリストを倒していく印象を受けました。これは多くの“リベンジ映画”に期待される熱い感情の盛り上がりが少し欠けているからでしょう。ただ逆に言えば、あまり感傷に流れすぎず、冷静な頭脳戦を見せる“地味なスパイ映画”とも言えます。

ラミ・マレックの内向的アクションヒーロー

主人公のチャーリーを演じるラミ・マレックは、“アクションヒーローらしからぬ”繊細さをもつ俳優です。線が細く、神経質そうな雰囲気はむしろ文系の暗号解読官にぴったりで、「素人が命懸けの復讐に走る」という危うさを表現しています。

  • 銃撃や肉弾戦でも強引な無双感はなく、どこか怯えがにじむリアルな仕草。
  • 妻を奪われた悲しみを内に秘めたまま突っ走る姿には不器用な哀愁がある。

一方、感情移入がしにくい面もあるのは事実。冒頭の喪失シーン以降、チャーリーが強烈な怒りを露わにする場面はあまり描かれず、ラミ・マレック特有の“静かな演技”が続くため、「復讐の激情」が観客に伝わりづらいという弱点も感じました。

(C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映像と音楽の安定感

映像面はスタイリッシュで、カラーリングも控えめにまとめられています。青や緑がかった寒色系を多用し、秘密工作の張り詰めた空気感を醸し出すなど、スパイ映画らしい雰囲気づくりが秀逸です。ただ、私の正直な感想としては、「IMAXで観るほどのスケール感はなかったかな」というところです。巨大スクリーンで映えるような派手な映像演出やシーンは意外と少なく、通常のスクリーンでも十分楽しめそうです。

音楽に関しては、近年『西部戦線異状なし』で注目されたフォルカー・ベルトルマンが担当。ドローンのような低音や心拍音に似たリズムを多用することで、潜入シーンやアクションシークエンスに継続的な緊張を与えてくれます。ただし、耳に残る劇的なメインテーマがあるわけではなく、あくまで“黒子”に徹したスコアでした。

スパイ映画好きなら要チェック?

総合的には「きちんと作られた無難なスパイスリラー」という言葉がぴったりの作品です。古典的スパイ映画が好きな人にとっては十分楽しめる要素がありますし、“分析官が現場で戦う”という設定は王道のジャック・ライアン的雰囲気を感じさせます。

一方、「観終わった直後に細かい感想が浮かばない」というくらい印象が薄いのも事実。個人的には「大外れでも大当たりでもない“安定路線”」の印象。派手なガジェット満載の超人的スパイアクションを期待すると肩透かしに終わるかもしれません。


印象の薄さと“記憶に残らない映画”の残念さ

今回最も気になったのは、「観終わって映画館を出たときに印象がほとんど残らなかった」という点です。先ほども述べたように、決して駄作ではないものの、語りどころや突っ込みどころに乏しく、「ああ、終わったな」という淡泊な余韻しか残りませんでした。

実は、世の中には“駄作”として名高い映画があります。たとえば

  • 実写版『デビルマン』
  • ハリウッド版『ドラゴンボール エボリューション』

これらは作品としての評価こそ酷評が多いものの、「あまりにも衝撃的」「ある意味インパクト大」という理由で、何年経っても話題に上がり続けます。爪痕を残したという点で、ある種の“記憶に残る映画”なのです。

一方、本作『アマチュア』は、そういった激しい凸凹がないぶん、観終わったあとに「内容を思い出せない」「あまり語ることがない」と感じられる可能性が高いといえます。鑑賞前と鑑賞後でも「2年後には午後のロードショーで流れるかも」「良い部分も悪い部分も無難すぎて埋もれそう」と感じたまま、印象が大きく変化しませんでした。

さらに言うと、実写版『白雪姫』(レイチェル・ゼグラー主演)など、公開前から物議を醸しつつ実際に観ると「こういう点が問題」「でもここは評価できる」という語るネタが多かった作品と比べると、『アマチュア』には「ここ、どうなの?」と賛否が激しく分かれるような要素があまりありません。良作にしろ駄作にしろ「議論の余地がある映画」は記憶に残りやすいものですが、本作の場合は脚本・演出ともに平凡にまとまっているため、話題性が薄れてしまうわけです。

もちろん、「鑑賞中に退屈しない」「堅実な作り」という点はポジティブですが、映画ファンとしては“あとあとまで語り続けたい”インパクトがほしいところ。ある意味、本作における最大の欠点は「無難にまとまりすぎた結果の印象の薄さ」かもしれません。


まとめ

スパイ映画としては一定の職人芸が光り、アクションのテンポやサスペンスの張り方は安定感があります。ラミ・マレックの内向的アクションヒーローという切り口も珍しく、「素人が頭脳戦でテロリストを出し抜く」という基本設定も王道好きにはたまらないでしょう。

ただし、復讐劇としての盛り上がりはやや控えめで、「主人公の感情が十分に掘り下げられないまま物語が進む」印象は拭えません。私自身、観終わったあと「うん、終わったね」と軽く受け流してしまい、一年後には内容をかなり忘れていそうだと感じました。実写版『白雪姫』のようにネガティブな話題があっても「印象に残る」作品や、逆に『デビルマン』『ドラゴンボール エボリューション』のように“ある種の伝説”を刻む作品とは真逆のベクトルで、“薄味”とも言えるかもしれません。

それでも、仕事終わりや休日に気軽に楽しむスパイサスペンスとしては十分。王道リベンジスリラーがお好きな方には、劇場鑑賞もおすすめです。もし観た方がいれば、あなたの感想もぜひコメント欄などで教えてくださいね。
次の続編があるなら、主人公の深掘りに期待したいところです!

  • IMDb『アマチュア』
    キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。
  • この記事を書いた人

HAL8000

映画と猫をこよなく愛するブロガー。 多いときは年間300本以上の映画を観ていて、ジャンル問わず洋画・邦画・アニメ・ドキュメンタリーまで幅広く楽しんでいます。

専門的な批評はできませんが、ゆるっとした感想を気ままに書くスタンス。 ブリティッシュショートヘア×ミヌエットの愛猫ハルも自慢したいポイントで、レビューの合間に猫写真や日常もたまに紹介しています。

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