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【ネタバレなし】映画『リング』感想|なぜ貞子は伝説になった?Jホラーの金字塔を観たら、そこには緻密な物語があった

映画『リング』基本データ

この記事でわかること

  • 1998年生まれの筆者が、初めて『リング』を観た正直な感想
  • 単なるホラーではない、ミステリー作品としての物語の魅力
  • Jホラーの神髄ともいえる、光と音を使った巧みな恐怖演出の分析
  • ブラウン管テレビやVHSなど、時代背景がもたらした恐怖の本質
  • 今、この時代だからこそ『リング』を観るべき理由

はじめに

こんにちは。当ブログ『ねことシネマ』へようこそ。

今回は、1998年に公開された中田秀夫監督の映画『リング』について語りたいと思います。

「今さらこの映画について?」と思われるかもしれません。何を隠そう私、この国民的ホラーの金字塔ともいえる作品を、先日初めて鑑賞したのです。きっかけは、久しぶりに映画でも観ようかとAmazonプライム・ビデオを眺めていたところ、偶然そのタイトルが目に留まったことでした。

『リング』といえば、「呪いのビデオ」「貞子」「井戸から這い上がる」「テレビから出てくる」…といった断片的なイメージは、多くの人と同じように私も持っていました。しかし、具体的にどんな物語なのか、貞子とは一体何者なのか、といった核心部分は全く知らなかったのです。ちょうど夏ですし、日本のホラー映画の金字塔に触れてみる良い機会だと思い、再生ボタンを押しました。

私自身、ホラー映画を積極的に観るタイプではありません。世代的には、フジテレビの『ほんとにあった怖い話』をリアルタイムで見て育ち、夏の昼下がりに再放送される「ほん怖 傑作選」を観るのが原風景、といったところです。

前置きが長くなりましたが、今回はそんな「Jホラーは『ほん怖』くらいしか知らない」私が、初めて『リング』を観て感じたことを率直に語っていきたいと思います。

あらすじ

※ここからの本編レビューは、結末の核心に触れる部分を除き、ネタバレ少なめで進めます。

テレビディレクターの浅川玲子(松嶋菜々子)は、観ると一週間後に死ぬという「呪いのビデオ」の噂を追っていました。奇しくも、そのビデオは自分の姪・智子(竹内結子)の死にも関わっているようでした。

噂の真相を追ううち、玲子自身もその呪いのビデオを観てしまいます。それは、意味の分からない不気味な映像の断片が、ただただ羅列されたものでした。ビデオが終わると同時に、不気味な電話が鳴り響きます。

死の宣告を受けた玲子は、元夫で大学講師の高山竜司(真田広之)に助けを求め、ビデオの映像を分析。二人はその謎が、かつて伊豆大島で起きた三原山の噴火に関係していることを突き止め、島へと向かうのですが……。

(C)1998「リング」「らせん」製作委員会

作品の魅力

鑑賞後、私が抱いた率直な感想は、「ただ怖いだけじゃない、ものすごく良くできたミステリー映画だ」というものでした。ここからは、私が特に心を揺さぶられた本作の魅力について、掘り下げていきたいと思います。

怖さだけじゃない!秀逸なミステリーとしての物語

ホラー映画初心者の意見かもしれませんが、本作は単に観客を怖がらせるだけでなく、ミステリーとして非常に良くできていると感じました。物語の軸に「呪いのビデオのルーツを探る」という明確な謎解き要素があるため、純粋なサスペンスドラマとしてぐいぐい引き込まれるのです。

アメリカのホラー映画にありがちな、殺人鬼のような絶対的な恐怖の存在が常に観客を脅かす、という構成とは一線を画します。物語の起点となるアイテムの謎を追っていく中で、満を持して「貞子」という恐怖の象徴が登場する。この構成が、怖がらせようという作り手の意図を見えにくくし、ドラマに没入する中でじわじわと不気味さや湿っぽい空気を感じさせることに成功しているように思いました。

少し調べてみると、この映画が鈴木光司さんの原作小説を巧みに脚色していることがわかりました。実は、原作小説では主人公は男性記者なのだとか。それを映画では、松嶋菜々子さん演じるシングルマザーの玲子に変更しています。この脚色が本当に見事!単なる謎解きサスペンスが、「我が子を守るためなら、呪いにだって立ち向かう」という母親の壮絶な物語へと昇華されているのです。だからこそ、彼女の行動一つひとつが胸に迫り、私たちは息をのんでその運命を見守ることになります。

Jホラーの神髄?光と音で構築される「湿度の高い」恐怖

もちろん、ホラー映画としての恐怖演出も秀逸でした。特に印象的だったのは、「静と動」の使い分け、つまり静寂と効果音の巧みさです。

静かなシーンで不意に鳴り響く金属音や電話の着信音、遠くでかすかに聞こえる物音。静寂が破られる瞬間の「ドキッ」とさせられる感覚は、ジャンプスケアの一種かもしれません。しかし、本作のそれは決して安易なものではなく、物語の緊張感を高めるために必要不可補な要素として、実に効果的に配置されています。

この巧みな音響設計は、後のJホラーに大きな影響を与えたと言われています。音楽を担当した川井憲次さんが生み出したとされる、あの甲高い軋むような呪いの音。専門的な分析によれば、これは単なる効果音ではなく、メディア自体が上げる悲鳴のようにも聞こえ、私たちの聴覚から直接不安を掻き立てるよう計算されているそうです。

映像面では、邦画の弱点として指摘されがちな「画面の暗さ」が、本作ではむしろ最大の武器として機能しています。映画冒頭、高校生二人が部屋で話しているだけのシーンですら、画面全体の暗さと、あえて人物に寄りすぎないカメラワークが「背景に何かいるのでは?」という想像をかき立て、何でもない場面でもハラハラさせられました。

私が感じた「背景の何かを意識させる暗さ」は、中田秀夫監督の計算された演出のようです。意図的に画面に余白(ネガティブスペース)を作ることで、観客に自ら恐怖を探させてしまう。この、じっとりとした「湿り気」を感じさせる映像こそが、『リング』独特の雰囲気を生み出しているのですね。

時代が生んだ傑作 ― ブラウン管とVHSという「呪物」

『リング』がこれほどの傑作となった要因の一つに、間違いなく「時代」があるでしょう。

象徴的なのが、テレビの「砂嵐」です。主人公が呪いのビデオに見入っていると、突然画面が砂嵐に切り替わる。視覚的な変化と、あの「ザーッ」という不気味なノイズが、強烈な恐怖を植え付けます。

これは、画面が明るく高画質な現代の薄型テレビでは、決して再現できない恐怖です。少しざらついた映像が映し出される、4:3の画角のブラウン管テレビ。その小さな画面を覗き込むからこそ生まれる緊張感と没入感がありました。

そして何より、「VHS(ビデオテープ)」という物質的に存在するアナログなメディアが、この物語の根幹を成しています。本作がこれほどの傑作となったのは、1998年という時代背景と切り離せません。私が感じたブラウン管テレビの砂嵐やVHSテープのアナログ感は、まさに呪いの「器」として完璧だった、と多くの分析で指摘されています。手から手へ渡り、簡単に複製(ダビング)できるビデオテープという存在が、呪いをまるでウィルスのように拡散させるというアイデアは、今見ても本当に斬新です。

意外な設定と、救いのない結末がもたらす深い余韻

個人的に一番驚いたのは、主人公たちが当たり前のように超能力を持っている設定でした。元夫の竜司が、触れたものから思念を読み取る能力を持っているのですが、少し唐突な印象を受けたのも事実です。

しかし、これも調べてみると原作からの変更点で、竜司を超能力者に設定することで、複雑な調査の過程を省略し、95分という限られた上映時間の中で物語を核心に早く近づけるための、巧みな判断だったようです。

そして、ついに明かされる「呪いを解く方法」。これを知った時、私は恐怖よりも先に「そうきたか…!」と、その残酷な賢しさに唸ってしまいました。怪物を倒せば万事解決、というお約束を鮮やかに裏切る、本作で最も恐ろしく、そして最も秀逸な仕掛けが、最後の最後に待っています。

VHSというアナログな媒体の特性を巧みに利用したその方法は、非常にクレバーな仕掛けであると同時に、観る者に単純な安堵感ではなく、ずしりと重い問いを投げかけるのです。この、どこか割り切れない後味の悪さと、一筋縄ではいかない結末の迎え方こそが、『リング』を単なるホラー映画で終わらせない、忘れがたい魅力なのだと感じました。

まとめ

今回初めて『リング』を鑑賞し、なぜこの作品が25年以上経った今でも語り継がれるのか、その理由が少しだけわかったような気がします。

それは、単なる恐怖演出の巧みさだけでなく、観る者を引き込むミステリーとしての強固な物語、そしてVHSやブラウン管テレビといった、その時代ならではのテクノロジーと、日本の土着的な怨念を見事に融合させた、奇跡的なバランスの上に成り立っているからではないでしょうか。

何を隠そう、私は『リング』が公開された1998年生まれです。私と同じ世代には、意外と本作を観たことがないという方も多いのではないでしょうか。

もし、あなたが私と同じように「有名だけど実は観たことがない…」のなら、この夏こそ絶好の機会です。デジタルに慣れた今だからこそ、ブラウン管から滲み出るアナログな恐怖に、きっと新鮮な衝撃を受けるはず。週末は、この映画で背筋の凍るような時間を過ごしてみるのも、また一興かもしれません。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。 皆さんは『リング』を観たことがありますか?もしよろしければ、あなたの感想もぜひコメントで教えてください!

  • IMDb『リング』
    キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。
  • この記事を書いた人

HAL8000

映画と猫をこよなく愛するブロガー。 多いときは年間300本以上の映画を観ていて、ジャンル問わず洋画・邦画・アニメ・ドキュメンタリーまで幅広く楽しんでいます。

専門的な批評はできませんが、ゆるっとした感想を気ままに書くスタンス。 ブリティッシュショートヘア×ミヌエットの愛猫ハルも自慢したいポイントで、レビューの合間に猫写真や日常もたまに紹介しています。

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