映画『ブルータリスト』基本データ
- タイトル:『ブルータリスト』
- 公開年:2025年
- 監督:ブラディ・コーペット
- 主演:
- エイドリアン・ブロディ(ラースロー・トート役)
- ガイ・ピアース(ハリソン・ヴァン・ビューレン役)
- フェリシティ・ジョーンズ(エルジェーベト・トート役)など
- 上映時間:215分
- 主な受賞・映画祭出品:
- 第97回アカデミー賞で作品賞・監督賞を含む10部門ノミネート
- ゴールデングローブ賞 作品賞(ドラマ部門)など受賞
- 視聴方法:
- 全国劇場で上映中
この記事でわかること
- 映画『ブルータリスト』の基本的な概要とあらすじ
- 215分の長尺でも飽きさせない魅力とインターミッションの効果
- 往年の大作映画を彷彿とさせる“序曲&休憩”などの演出手法
- 主演・エイドリアン・ブロディの名演技の見どころ
- 建築家の物語ならではの美しく重厚な映像表現と音楽の素晴らしさ
- 観終わったあとの満足感と、アカデミー賞を巡る期待
はじめに
当ブログ『ねことシネマ』にお越しいただき、ありがとうございます。
今回は、絶賛公開中の話題作『ブルータリスト』を取り上げます。第97回アカデミー賞で作品賞を含む10部門にノミネートされ、批評家・観客双方から大きな注目を集める長尺(215分)の大作です。
実は私、3連休を利用して映画三昧を満喫しておりました。前日は『愛を耕すひと』『あの歌を憶えている』の2本を続けて映画館で鑑賞し、「せっかくなら話題作も観ておこう!」という気持ちになり、そこからさらに勢いづいて劇場へ足を運んだのが、この『ブルータリスト』です。
「3時間35分超えはさすがに厳しいかも……」と思う方もいるかもしれません。ですが、結論から言えば予想以上にスムーズに観られたので、むしろ貴重な映画体験を楽しむことができました。今回の記事では、作品の構成やテーマ、心惹かれた演出などをライトにまとめながら、長尺ならではの醍醐味をご紹介します。
あらすじ
かつてハンガリーで名声を博したユダヤ人建築家のラースロー・トートは、第2次世界大戦中の悲劇によって最愛の妻エルジェーベトや姪ジョーフィアと無理やり引き離されるという過酷な運命に見舞われる。なんとかホロコーストを生き抜いた彼は、家族と新しい生活を始めようとアメリカのペンシルベニアへ渡る。新天地での生活に希望を託すラースローだったが、そこで出会った実業家のハリソンは、ラースローの祖国での輝かしい実績に目をとめ、家族の早期呼び寄せを条件に礼拝堂の設計を依頼。夢のような話に思えたが、文化もルールも異なる土地での建築は想像以上に複雑で、ラースローは新たな壁に突き当たる。
観るきっかけはアカデミー賞ノミネート&評判の高さ
私が『ブルータリスト』を選んだ理由の一つは、第97回アカデミー賞に10部門ノミネートという大きなニュースでした。「ここまで話題になるなら、観ないわけにはいかない!」というミーハー心と、批評家・観客双方で評価が高いという評判に背中を押された形です。
もっとも、215分もの上映時間に加え、「途中で飽きてしまわないか」「トイレに行きたくなったらどうしよう」などの不安もありましたが、実際に観てみるとそんな懸念はほぼ無用。むしろ作品世界にじっくり浸れる貴重な体験でした。
インターミッションがもたらす“余韻とリセット”──実際に第二章が始まる
本作の大きな特徴の一つは、15分間のインターミッション(休憩)があること。前半約100分、後半約100分の二部構成になっており、休憩時間には場内が明るくなり、スクリーンにはカウントダウンが映し出されます。私も含め、多くの方がトイレや飲み物の補充に立つなど、昔ながらの“休憩文化”を楽しんでいました。
しかも本作では、このインターミッションがしっかり“物語の一部”になっているのがユニークです。ピアノ曲が流れる穏やかな雰囲気から、徐々に街の喧騒へフェードインし、そのまま後半戦へ突入する演出は見事。明けると同時に「ここから第二章ですよ!」とドラマが動き出すので、気持ちをリセットしてスッと作品世界に戻れます。
ちなみに、インターミッションの間は撮影OKと公式でアナウンスされている点も面白いですね。(外部リンク)

まるで往年の名作──序曲から始まる特別感
215分のボリュームに加え、本作には「序曲(オーバーチュア)」が用意されている点も注目。私自身、『2001年宇宙の旅』や『ウエストサイド物語』のようにスクリーンで堂々と序曲が流れる作品はリアルタイムで観ていなかったので、現代の劇場で「始まる前に音楽がかる」という状況が新鮮でした。
映画の尺や演出手法まで含めて「古典的大作へのオマージュ」を感じさせつつ、映像美や音響は現代ならではの迫力。監督ブラディ・コーベットの作家性や野心がひしひしと伝わってきて、ちょっとワクワクしてしまうんですよね。
移民船の長回しから掴まれる冒頭シーン
「この作品なら、最後までしっかり観られる!」と私が確信したのは、冒頭の移民船シーンでした。手持ちカメラでラースロー(エイドリアン・ブロディ)を至近距離から捉える長回しは、新天地にやって来た彼の期待と不安をまるごと映し出していて、思わず引き込まれます。
さらに、眩しいほどの光に包まれた直後、カメラが空を写した瞬間、逆さまの自由の女神像がフレームインするんです。希望と不安がないまぜになった心象風景を、こんな大胆かつシンボリックに見せるとは……冒頭からぐっと心を掴まれました。
建築家ラースローの人生をじっくり描く215分
「3時間35分も本当に必要なの?」と思う方もいるかもしれませんが、主人公ラースローの数奇な人生を丹念に追い、建築家としての仕事ぶりを細部まで映し出すには、これだけの尺があってこそとも言えます。
とりわけ、大富豪の屋敷を改装するシーンや、次に手がけるコミュニティセンターの計画は、ストーリーの鍵になるだけでなく、“建築という行為”をじっくり見せてくれるのが面白いところ。ここで流れる音楽は、エヴァやシン・ゴジラで印象的な「デンデンデンデンドンドン!」のような高揚系ではなく、淡々としたピアノ曲。だからこそ静かな緊張感があり、ラースローが黙々と作業する姿を神秘的に際立たせます。
床掃除ひとつ取っても、人物の繊細さや職人めいた一面が垣間見え、「なんて美しい画づくりなんだろう」と感嘆してしまいました。

音楽のコントラストが生む驚き
本作の音楽を手がけたダニエル・ブルンバーグは新鋭ながら、本格的なクラシック調とジャズテイストをうまく融合させています。インターミッション中も、しっとりしたピアノ曲が鳴り続けていて、そこから街の喧騒や環境音が混ざって後半に突入する演出は秀逸。
ただ、静かな曲調が続く分、後半で急にポップソングがかかるシーンでは「おお、こんな要素も入れてくるんだ!」と衝撃を受けました。3時間以上を支配してきた世界観に、一瞬風穴を開けるような感じで、思わずハッとさせられます。
エイドリアン・ブロディの名演──“戦場のピアニスト”以来かなぁ
そして、やはり語らずにいられないのがエイドリアン・ブロディの存在感。『戦場のピアニスト』で当時最年少のオスカー主演男優賞に輝いた彼が、久々に骨太かつ長尺ドラマの中心を担っています。
彼はホアキン・フェニックス(『ジョーカー』)やエマ・ストーン(『哀れなるものたち』)のような“怪演”タイプではありません。しかし、微妙な表情の変化や静かな所作だけで、主人公の30年を見事に演じ切る説得力があります。若き日の理想に燃える瞳から、中年期の疲労、晩年の哀愁までをしっかり表現しており、3時間35分という長尺を支える大きな原動力になっていました。
「主演男優賞取っちゃうんじゃないか?」と思うほどの名演でした。
総評:堂々たる長編体験を味わって損はなし
観終わってみれば「なるほど、10部門ノミネートもうなずける」と納得の充実度でした。とはいえ「去年の作品賞受賞作『オッペンハイマー』や同年ノミネートの『哀れなるものたち』のような、圧倒的な衝撃に襲われるタイプか」と言われると、そこまでのインパクトは少し薄いかもしれません。
それでも、長尺ならではのたっぷりとした余韻と、インターミッション込みで全身で味わう映画体験には大きな魅力があります。とりわけ建築という題材をじっくり描きつつ、ラースローの人生観や芸術家の孤高の姿勢を浮き彫りにする点がユニークで、終盤の展開を経てから振り返るとグッと来る部分も。
特典でもらった「建築家ラースロー・トートの創造」というミニブローシャには、コミュニティセンターの設計意図が詳しく載っていて、インターミッション中に読むとより作品世界に浸れるのも嬉しいところ。
おわりに:コメントお待ちしています
「3時間越えはちょっと……」と構えている方にこそオススメしたい1本です。インターミッションできっちり休憩も挟めますし、何より映画そのものの密度と力強さでグイグイ引き込まれます。アカデミー賞でどこまで食い込むのかも気になるところですが、個人的には主演男優賞や作曲賞あたりの受賞にも期待が高まっています。
当ブログ『ねことシネマ』では、映画レビューを中心に、わが家の猫(はる)との何気ない日常もぼちぼち紹介中。今回は長編に全集中で、猫エピソードはありませんでしたが、次回はまたはるの写真も載せたいと思います。ぜひまた遊びに来てくださいね。
コメント大歓迎です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
- IMDb『The Brutalist』
キャストやスタッフの詳しい情報、ユーザーからの評価やレビューなどが充実しています。英語サイトですが、作品の撮影秘話やTrivia(トリビア)も多く、さらに深く知りたい方にはおすすめです。